6.恋愛

不二の家の玄関の前で、手塚は一つ溜め息をついてからチャイムを押した。
これから不二に会う為に来た。今までとは違う関係を見いだす為に。心なしか
緊張感が手塚の中にわき起こる。

「あら?手塚君...」

手塚を出迎えてくれたのは、不二ではなかった。その事に少々気がそがれた
思いだが、そんな事は全く表に出さずに手塚は由美子に不二を呼んでくれる
ように頼んだ。それを聞いた由美子は、その場で手塚に待つように言い残すと
、家の中へと入っていった。

         ◇     ◇     ◇

「はい...」

ドアをノックする音に、不二は部屋の中から返事をした。その途端にドアが開かれる。

「周助、手塚君が来ているんだけど」

「手塚が?」

「えぇ、そのまま上がってもらってもいいのかしら?それとも自分で出迎える?」

「そうだね、下に降りて自分で出迎えるよ」

「わかったわ」

「あっ、姉さん」

「何?」

「手塚、何か言ってた?」

「いいえ、別に何も。どうかしたの?」

約束もしていないのに、手塚が訪ねてきた事に不二は驚いていた。
いったい何があったのだろうと思ったのだが、由美子の様子では手塚に
いつもと変わった様子は見られないらしいと悟る。

「何でもないよ」

「そう?今日はケーキが焼いてあるけど、後で差し入れしましょうか?」
「うん。お願いしてもいいかな?」                  
「わかったわ」

台所へ向かう由美子とは別に、不二は玄関へと向かった。

出迎えた手塚を、不二は自分の部屋へと誘った。

「...手塚、どうしたの?急に訪ねて来るなんて?」

「お前と話がしたかったんだ」

「僕と?」

「あぁ...」

こんな風に訪ねてきて、いったい何の話なのだろうかと不二は首を傾げる
。手塚の話と言うのがどんなものなのか、一向に察しがつかない。
部屋に入ってすぐに由美子からケーキと紅茶が差し入れられた。
それを手塚に勧めながら、不二は手塚が口を開くのを待った。

「不二...」

「何?手塚...」

「お前に聞きたい事がある?」

「うん...」

「お前にとって俺の存在とはいったい何だ?」

「!.........」

それは不二の方が手塚に聞きたい事であった。何も言う事が出来ず、
不二は口ごもってしまう。

「今さらかもしれないが、ずっと悩んでいた。お前の本当の気持ちを
聞かせて欲しい」

「手塚...。その台詞、僕が君に聞きたい事なんだけど」

「不二...」

「あの日何で僕を抱いたの?」

「それは、お前の事が好きだからだ」

「手塚...」

「最初許されるような関係ではないから、自分の中でこの想いを
封印しようと思った。けれど、あの日、菊丸とお前の姿を昼休みに
見かけて俺は動揺した。菊丸でいいのなら、自分でもいいのではないかと
思った。お前の気持ちを確かめず酷い事をした」

手塚はそう告白して、頭を垂れた。

「あの日...。僕も嫉妬したよ。君と一緒に居た女の子に。その時は気が
付かなかったんだけど、ね...」

「不二......」

その言葉を聞いた手塚は、不二の身体をそっと抱き寄せた。

「手塚、君にとって僕は何?」

手塚の胸に抱き寄せられながら、不二はそう問いかけた。

「恋人。それでいいんだな?」

「うん..」

互いの気持ちを確かめ合った二人の、恋愛関係の始まりだった。

           END    小説目次へ



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