「手塚、先にお風呂使って。着替えを用意してくるから」 そう言って不二は手塚をバスルームへと案内した。 浴室にある物は好きに使って良いと言われ、その通りにする。ゆっくりとバスタブに浸かりながら、自分は何をしにここへ来たのだろうと思う。 不二に誘われるままこうして自宅を訪れたものの、肝心の本人とはあまり話をしていない。 どこか様子がおかしかった不二。 自宅に寄るように勧めたのは何か自分に言いたい事でもあるのだろうかと手塚は思っていたのだが、不二は何も言わなかった。 お風呂から上がった手塚は、用意されたパジャマに着替えるとバスルームを後にした。 初めて訪れた不二の家。そんな状態での急な泊まり。誘われるままにそれを承知したものの、手塚は不二の部屋がどこにあるのかもわからず困っていた。そこで明かりがついたままのキッチンへと足を運ぶ。 「手塚」 キッチンにいた不二が手塚を中へと招いた。招かれるままにキッチンへ足を踏み入れる手塚。そこには不二の他に姉の由美子もいた。 テーブルの上には、何やら見なれぬ物が置かれている。 「何をしているんだ?」 「姉さんにタロット占いをしてもらっていたんだ」 「占い?」 「そうだよ。姉さん占いってよく当たるんだ」 「そうなのか?」 「うん。実は占いの本まで出版されているんだよ」 「それは、凄いな...」 手塚は占いに興味を持った事は今までになかったので、勿論不二のお姉さんが出した本がある事も知らなかった。 「手塚も何か占ってもらったら?その間に僕もお風呂に入ってくるから」 そう言って不二は手塚をその場に残しお風呂場へと向かった。 「手塚君どうぞ、そこに座って」 「手塚君。あなた今好きな人がいるわね?」 由美子に言われて、手塚は内心ドキッとした。表情はポーカーフェイスを保っていたので、由美子がそれに気付いているかどうかはわからない。 その質問には答えずに、手塚は由美子が言う占いの結果の先を促した。手塚の態度に、由美子も無理に聞くつもりはないようで続きを話始める。 「それも苦しい恋みたいね」 手塚の脳裏に不二の言葉が蘇る。 『姉さんの占いってよく当たるんだよ』 占いに興味がない手塚は、不二の言葉を軽く流していた。占いは当たるも八卦当たらないも八卦と言う様に、必ずしも真実を言い当てるとは限らない。そんな気持ちがどこかにあった。 由美子の言葉が的を得ていた事で、手塚はその認識を改めさせられていた。 「そんな事まで占いでわかるものなんですか?」 だからついそんな風に言葉にしていた。 「当たりだったのかしら?」 「はい...」 「それじゃあ、次はその恋がどうしたら進展するか占ってあげる」 手塚の返事をまたずに、由美子はまたカードを切り始めた。その様子を見ながら、その相手はあなたの弟ですと言ったらこの人はどうするのだろうかと手塚は思った。 「手塚お待たせ。あれ、まだ占い終わっていないの?」 二人からエールを送られて、手塚は複雑な思いだった。そんな手塚の様子には気付かずに、由美子はカードを片付けている。 「行こう、手塚」 占いが終わった事を見届けた不二は、そう言って手塚を自分の部屋へと誘った。 |