12

サエキとイヌイに別れの挨拶をした後、アイスキングダム王国へはフジが魔術を
使って移動した。テヅカ達の前には、立派な城が聳え建っている。城の門の前に近付くと、
フジはヘキサングラー王国のサエキの屋敷を訪ねた時と同じ様に、イヤリングを外して
門番に渡し、自分の名前とその訪問を取次いでくれる様に頼んだ。

ほどなくして城への入場を許された後、私的な謁見の間へと通される。そこでテヅカ達を
迎えたのは、この国の現国王だった。自信家で傲慢とさえ感じられるその態度。

「久し振りだな、フジ」

突然フジが現れた事に、その人物は別段驚いてもいないようだった。まるでこなる事を
最初から予期していたように、不二達はあっさりと彼の元へ案内された。

「アトベ...」

「ふぅん、やっぱりアレは外していたか。うちの魔術師が、ヘキサングラー王国へ入った
後すぐに、行方が追えなくなったと言っていたから、そうだろうとは思っていたが」

フジの側まで近寄って来たアトベは、フジの首に触れるとそこにリングがないのを確認
するかのように触れた。

「やっぱり君だったんだね...」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　ため息をついてから、フジは確認するように言った。二人の会話をテヅカ達は部屋の
片隅で黙って聞いている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　
「あぁ、外したのはサエキあたりか？」　
　　　　　　　　　　　　　　　
跡部は確信しているかのようにそう言った。　
　　　　　　　　　　　　
　「そうだよ。ねぇ、何故あんな真似をしたの？」　
　　　　　　　　　　　
「あぁん？そんな事は決まっているだろう。お前が素直に俺様を頼ってこないからだろうが」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　当然だろうと言わんばかりにアトベが言った。

アドレッセント王国が消失した後、住人達がアイスキングダム王国へも大勢流れてきていた。
詳しい事情を知っている者はいなかったが、フジが生きている事に希望を持っていたアトベは、
ずっとこの近辺で兵士達を待機させていた。フジの特徴を教え、そう言う者が現れたら連絡を
するように指示していたらしい。そして一人の兵士が、アイスキングダム王国の城下町を通って
北へ向かう一行の中に、フジの姿を見付けて、もしかしたらとアトベに進言した。その事から、
アトベは、兵を北の方へ派遣し、アドレッセント王国での対峙になったらしい。それを聞いた
フジはもう一度溜め息をつく。

「君を頼るために訪ねなかったのは、迷惑をかけたくなかったからだよ。君があんな事をした
理由はわかったけど、だからって何も襲撃までしなくてもいいと思うけど」

私的な謁見の間での会見とあって、お互い言い方に遠慮がない。相手が国王だと言っても、
幼馴染みで昔から良く知っている仲なので、気を遣う事もなかった。

「迷惑をかけたくないだと？そんな事は俺様が決める事だ。お前が最初から俺を頼ってくる
ようなら、あんな真似するかよ。手荒な真似だとは思ったから、一応兵達には、お前以外の
やつらも傷つけるなと言っておいただろうが」

アトベが命令した通り、フジもそしてテヅカ達も襲われはしたものの、怪我らしい怪我は
負っていない。

「確かに誰も怪我を負う様な事はなかったけど、だからって、あんな...。
僕はてっきりラティオダンク王国の手の者が、自分を狙ってきたのかと思ったよ」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　ご丁寧に魔力を封じる道具まで用意して、狙いが最初からフジにあるのだと言う事は
察する事が出来た。
時期が時期だけに、その可能性も有ったのだ。

「それじゃあ、アドレッセント王国が滅んだのは、ラティオダンク王国が関係しているんだな？」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
アトベの問いに、フジはこれまでの経緯を説明する。
アトベは黙ってそれを聞いていた。

「それで、お前はアドレッセント王国を再興するつもりはないと言うんだな、フジ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
話を聞き終わった後、アトベはフジにそう確認した。
　　　　　　　　　
　「ないよ。サエキにもそう言ったけど」
　　　　　　　　　　　　　　　　
「そうか、それなら、俺様の元へ来いフジ」
　　　　　　　　　　　　　
　「アトベ？」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「俺様の愛人になれって言っているんだよ。お前は知らなかっただろうがな、フジ。
俺様はずっっと前からお前に惚れている。サエキも多分同じだ。今までは、お前が
アドレッセント王国の跡取りだったから、その事を言うつもりはなかったが、国が
消失した今、何も遠慮する様なものはない」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「アトベ...」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「たとえラティオダンク王国の手の者がお前を狙ってきても、俺様ならお前を
守ってやれる。俺の元へ来い、フジ」

なんて自信ありげな言葉だろうとフジは思う。アトベは昔からそうだった。彼は生まれながらに
人の上に立つ為に生まれてきたような人物だった。その尊大な態度も、彼にとっては魅力の
一つなのだ。ただの口先だけの人物ではない。そんな者に一国を預かる事は出来ない。
アトベが若くして王位を継げたのも、彼にそれだけの力があればこそだ。

「君の気持ちは有り難いと思うけど、それは出来ないよ、アトベ。僕は君の事が好きだ。
でもそれは、友達としてで、それ以上のものではない」　　
「俺様の事が嫌いじゃないなら、これから好きになればいい」　
　　　　
　「出来ないよ、アトベ。好きな人がいるんだ...」
　　　　　　　　　　　
　フジはそう言って、テヅカの方を見た。その時、アトベは初めて部屋にいるフジ以外の
人物に視線を向けた。アトベの射る様な視線を受けても、テヅカは全く動じていない。

「あいつの事か？」

「うん...」

「趣味が悪いなお前。長かった髪を切っちまったのも、あいつの好みか？」

「違うよ。髪はアドレッセント王国を後にする時に切った。旅をするのに長い髪は邪魔だと
思ったから。後、自分の気持ちに区切りをつける意味もあって...」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　アトベの言い方に苦笑しながら、フジはそう言った。
　　　　　　　　　
　「それで、あいつと一緒に行くって言うのか？」
　　　　　　　　　　　　
フジがこうと決めたら以外と頑固なところがあるのをアトベは知っている。
これ以上引き止めても無駄だと言う事がわかっているのだ。　　　　　
「そうしようと思っている」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「で、あいつは何者なんだ？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　自分と視線を合わせながらも、まったく動じないテヅカの態度に、
アトベは初めてその素性に興味を持ったようだ。　　　　　　　　　　　　　　　
「彼はプライム王国の皇子だよ」　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「プライム王国？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「そう...」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「そんな所へお前は行くって言うのか？」　
　　　　　　　　　　　　　　
この国からプライム王国までの距離は遠い。魔術で移動すればあっと言う間に行けるけれど、
その距離感が埋まるわけではない。　　　　　　　　
　「そうだよ」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　フジの言葉に迷いはなかった。今度はアトベが一つため息をついた。
　　
　「フジ、あいつに嫌気がさしたらいつでも俺の元へ来い」
　　　　　　　
　「ゴメンね、アトベ。有難う...」

攫われかけたりと色々な目にあわされもしたが、フジはアトベの事を嫌いにはなれなかった。
やり方に問題はあったと思うが、彼なりに自分を思っての行動だったと知っているからだろう。

自分達を襲った者が、アトベだったと言う確証を得て、これでこの辺りに止まっている理由はなくなった。

「もう行くのか？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「うん...、元気でね、アトベ」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
フジはアトベに別れを告げる。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「待てよフジ。まだこれを返してねぇだろ？」　
　　　　　　　　　　　　
アトベはそう言って、フジが門番に預けたイヤリングを手に取ってみせた。
サエキがそうしたように、アトベ自らの手でフジの耳にそれを付ける。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「有難う...」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「礼はこっちから頂いておく」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「！んっ..........」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　アトベはそう言うと、フジの唇を強引に奪った。咄嗟に前に出ようとするテヅカを
ユキムラが止める。相手はこの国の王なのだ。プライム王国の皇子であるテヅカが
彼に手を出す様な真似をすれば、それは国家間の問題になりかねない。

「アトベ....！」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　唇が離れた後、フジは講義の声を上げる。　
　　　　　　　　　　　　　　
「これくらいいいだろう？あんな突然現れた奴に、お前を攫われるんだ。これくらいしないと、
こっちの気持ちが収まらねぇよ」　
　　　　　　　
　アトベはそう言ってテヅカを見た。
テヅカは不機嫌そうな表情をしている。それを見たアトベは、それで溜飲を下げる事にしたようだ。

テヅカ達はその後アイスキングダム王国を辞して、それぞれの国へ帰る事になった。

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ここまで読んで下さり有難うございました。サイトへの掲載はここまでとさせて頂きます。この後の想像はだいたいつくと思うのですが…続きを読みたいと言う方は、オフ本を作りますのでそちらを見てやって下さい。