携帯の着歴に気がついたのは家に帰ってきてすぐのことだった。久しぶりに家族で外食した後、家に帰ってきて鞄から携帯を取り出した時にその事に気付いた。 画面に出ているのはクラスメイトの菊丸英二の名前。何があったのかなと思いつつ不二は電話をかけた。 「もしもし…」 「英二?今日7時頃に電話をもらったみたいだけど…何だった?出かけていて携帯が鳴ったのに気付かなかったんだ、遅くなってごめん」 時計の時間を見て不二が謝る。現在時刻は8時過ぎ。電話をもらってから気付くのに1時間近くが過ぎてしまっている。 「にゃ~たいした用事じゃないんだけど、不二今から出てこられない?」 「今から?多分大丈夫だと思うけど…」 「だったら俺の家に来て」 「英二の家に?」 「そう待ってるからね」 詳しい用件を聞く前に電話は切れてしまっていた。不二は訳がわからないまま母親に外出を告げると菊丸の家へと向かった。 呼び鈴を押すまでもなく、不二が菊丸の家にたどり着いた時菊丸は家の外の道路に立っていた。 パーンと派手な音をあげて花火が上がっていく。 二つ三つと続けて花火が筒から放たれる。 「まるで銃弾が発射されているみたいだね」 「どれだけ出るんだろう?」 五つ六つ七つ… 「そろそろ終わりじゃない?」 八つ目が出たところで静かになった。 「これで終わりみたいだね」 「あっ本当だ。筒にも8連って書いてある」暗い中で目を凝らすとそう書いてあるのが見えた。 「次は俺がやろう」乾がそう言って菊丸がさっきやったのと同じ花火を手に取り導火線に火をつけた。派手に音を立てて飛び出す花火を片手に乾はブツブツと何やらつぶやいていた。 何打間だと言ううちに菊丸と乾がほとんどの花火をあげてしまっていた。 「次不二これやりなよ」菊丸が不二に花火を手渡す。 「あれ?」何度も火をつけてみるのだがいっこうにつく気配がない。 「火薬が湿っているのかな?」 「不二、それはもう水の中に捨てておけ」それまで黙って見ているだけだった手塚がそう言った。火がつかないのだから仕方が無い。不二は持っていた花火をバケツの水の中に捨てた。 本当は危ないからやってはいけないのだが、手にもってやっても大丈夫そうな長さのある花火は残すところ後一つとなっていた。その一つを手塚が手に取る。 「手塚君もやってみる気になったのかい?」そう言いながら乾が手塚の持っている花火に火をつけた。 「次はこれだね~」菊丸が地面の上に花火を置いて火をつけた。上に向かって美しい花火の花が咲く。それが終わると。 「次は2つ一緒にやってみるって言うのはどうだろう?」 「それいいかも」乾の提案に菊丸も同意する。乾の置いた花火から少し距離を置いたところに違う種類の花火を菊丸が置いた。 種類の違うに種類の花火がうち上がる。 打ち上げ花火を全て終えた後で、手で持ってやる花火を皆でやる。最後を線香花火で飾った。 「それじゃあ、今日はそろそろお開きにしようか…」 「もしかして僕の事を心配してくれたの?」 手塚の言葉を聞いて不二はそっとその腕にもたれかかった。 「…そんな事をして自分が怪我をしたらどうするのさ?」ぜったい大丈夫だって言う保証はないんでしょうと不二が言う。 「そうだな、次回からは気をつけよう」 どこまでもまじめに答える手塚に不二はクスクスと笑う。 「不二?」 「…今度は二人で花火をしようよ?」普通にねと少し見上げるように不二が言う。その肩を抱き寄せて手塚は不二の唇にそっと触れるだけのキスをした。 「そうだな…」夏の想い出に。その言葉に不二もうなずいた。 END 小説目次へ |