携帯の着歴に気がついたのは家に帰ってきてすぐのことだった。久しぶりに家族で外食した後、家に帰ってきて鞄から携帯を取り出した時にその事に気付いた。
画面に出ているのはクラスメイトの菊丸英二の名前。何があったのかなと思いつつ不二は電話をかけた。
「もしもし…」
「英二?今日7時頃に電話をもらったみたいだけど…何だった?出かけていて携帯が鳴ったのに気付かなかったんだ、遅くなってごめん」
時計の時間を見て不二が謝る。現在時刻は8時過ぎ。電話をもらってから気付くのに1時間近くが過ぎてしまっている。
「にゃ~たいした用事じゃないんだけど、不二今から出てこられない?」
「今から?多分大丈夫だと思うけど…」
「だったら俺の家に来て」
「英二の家に?」
「そう待ってるからね」
詳しい用件を聞く前に電話は切れてしまっていた。不二は訳がわからないまま母親に外出を告げると菊丸の家へと向かった。

呼び鈴を押すまでもなく、不二が菊丸の家にたどり着いた時菊丸は家の外の道路に立っていた。
いたのは菊丸だけではない、他にもテニス部の見知ったメンバーが立っていた。大石に河村、乾に手塚、そして菊丸と不二の6人がその場にそろった事になる。
「英二?」
いったい今から何が始まるのかと菊丸の方を見ると。
「皆で花火しようと思ってさ」
そう言って楽しそうに花火セットを持ち上げてみせる。透明な水泳バックのようなものに入った中身は打ち上げ花火が多く入っているように見える。よくよく見ると打ち上げ花火セットと銘打たれていた。
「それ英二が買ってきたの?」
「そうだよん。昼間姉ちゃんの買い物につき合ったお礼に買ってもらったんだ~」
半額になっているから買ってとおねだりしたらしい。定価5000円が斜線で消してあり赤字で2500円と書いてあった。バックの中から花火を全て出して道路の端に置く。打ち上げ花火セットと書いてあるだけあって中身はほとんど打ち上げ花火ばかりで手で持ってできるのは線香花火とあともう一種類あるだけである。
「どれからやる?英二」
 大石が菊丸に聞く。これと菊丸が手に持ったのは長さが30センチ程の筒形の花火だった。それを地面に置くように大石が言うと。
「持ったままやる!」
「えっ?英二?」
「大丈夫だから火をつけてよ大石」
家から持ち出したライターを大石に渡して菊丸が言う。本気で持ったままやるつもりなのかと大石の表情は青ざめている。その心境は誰か英二の無茶を止めてくれといったところだっただろう。
「面白いじゃないか…」
「!乾………」
「そう心配するな大石、それだけの長さが有れば手で持ってやっても大丈夫だと思う。君が火をつけられないのなら俺がやろうか?」
そう言うと大石の手からライターを取り上げて菊丸の持っている花火の導火線に火をつけ

パーンと派手な音をあげて花火が上がっていく。
 「うわぁ~」

二つ三つと続けて花火が筒から放たれる。

「まるで銃弾が発射されているみたいだね」

「どれだけ出るんだろう?」

五つ六つ七つ…

「そろそろ終わりじゃない?」

八つ目が出たところで静かになった。

「これで終わりみたいだね」

「あっ本当だ。筒にも8連って書いてある」暗い中で目を凝らすとそう書いてあるのが見えた。

「次は俺がやろう」乾がそう言って菊丸がさっきやったのと同じ花火を手に取り導火線に火をつけた。派手に音を立てて飛び出す花火を片手に乾はブツブツと何やらつぶやいていた。

何打間だと言ううちに菊丸と乾がほとんどの花火をあげてしまっていた。

「次不二これやりなよ」菊丸が不二に花火を手渡す。

「あれ?」何度も火をつけてみるのだがいっこうにつく気配がない。

「火薬が湿っているのかな?」

「不二、それはもう水の中に捨てておけ」それまで黙って見ているだけだった手塚がそう言った。火がつかないのだから仕方が無い。不二は持っていた花火をバケツの水の中に捨てた。

本当は危ないからやってはいけないのだが、手にもってやっても大丈夫そうな長さのある花火は残すところ後一つとなっていた。その一つを手塚が手に取る。

「手塚君もやってみる気になったのかい?」そう言いながら乾が手塚の持っている花火に火をつけた。

「次はこれだね~」菊丸が地面の上に花火を置いて火をつけた。上に向かって美しい花火の花が咲く。それが終わると。

「次は2つ一緒にやってみるって言うのはどうだろう?」

「それいいかも」乾の提案に菊丸も同意する。乾の置いた花火から少し距離を置いたところに違う種類の花火を菊丸が置いた。

種類の違うに種類の花火がうち上がる。

打ち上げ花火を全て終えた後で、手で持ってやる花火を皆でやる。最後を線香花火で飾った。

「それじゃあ、今日はそろそろお開きにしようか…」
花火を終えてしばらく皆で他愛の無い事を話していたがいつまでもこうしていてもしかたがない。
「それじゃあ俺帰るよ」まずは河村がそう言って去っていった。
「俺も帰るとしよう。今日は面白いデーターが取れたよ」花火で何のデーターを取っていたんだと言う皆の突っ込みを余所に乾もその場を立ち去っていった。
「大石大丈夫?」
大石はまだ心なしか青ざめた顔をしていた。打ち上げよう花火を手で持ってやると言う危険な行為に、全て終わった今も彼の繊細な神経は完全にはダメージから抜けきれていないようである。
「少し家で休んでいく?」
菊丸が大石に声をかける。
「そうさせてもらった方がいいんじゃないの大石。まだ顔色が悪いよ」
いったい誰のせいなんだと言う事もできないまま大石はそうさせてもらうと静かに言った。
「それじゃあ僕も帰るね」不二がヒラヒラと菊丸たちの方に手を振る。その後を手塚も続く。菊丸の家から少し離れた所にきてから不二が手塚に言う。
「君が打ち上げようの花火を手に取ってやるとは思わなかったよ…」
クスッと笑いながら言う不二に手塚は眉根を寄せた。 
 「やりたくてやったわけじゃない…」
手塚とて大石と同じでそんな危ない花火のあげ方をするのは反対だった。ただ皆が楽しそうにしている所に水を差す事も無いだろうと自分を納得させて黙認しただけである。
「そうだろうね。だから意外だと思ったんだ…」
「お前が…」
「僕が何?」
「あのままだったら最後の一つをお前がやる事になっただろう…」
流れ的にはそうなっていてもおかしくなかった。不二が渡された花火は火薬が湿っていて火がつかない欠陥品だった。あのままだったらそれじゃあこれをと次の花火を渡されていただろう。それが嫌だったのだと手塚は不二に告げた。手塚の方を見た不二はキョトンと目を見開いた。

「もしかして僕の事を心配してくれたの?」
「…ぜったい大丈夫だと言う保証はないからな…」

手塚の言葉を聞いて不二はそっとその腕にもたれかかった。

「…そんな事をして自分が怪我をしたらどうするのさ?」ぜったい大丈夫だって言う保証はないんでしょうと不二が言う。

「そうだな、次回からは気をつけよう」

どこまでもまじめに答える手塚に不二はクスクスと笑う。

「不二?」

「…今度は二人で花火をしようよ?」普通にねと少し見上げるように不二が言う。その肩を抱き寄せて手塚は不二の唇にそっと触れるだけのキスをした。

「そうだな…」夏の想い出に。その言葉に不二もうなずいた。

                      END    小説目次へ



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