「いいけど。珍しいね、君がそんな所に行こうって誘うなんて」

学校の帰り道。無愛想な表情で、とても遊びに行こうと誘っている様には見えない手塚に、不二は苦笑する。いったいどう言う気持ちで誘っているのかと思うと何だかおかしかった。手塚と遊園地、およそ縁がなさそうなところだ。明日は週末、学校は休みなので遊びに行く事になんら問題はないのだが。

「...これをもらたんだ」

そう言って手塚が差し出したのは、遊園地のフリーパスの招待券。それをみて不二は成る程と頷いた。

「誰にもらったの？」

「母だ。買い物に行った時、福引きで当てたらしい」

「そうなんだ？」

言いながら不二はクスクスと笑っていた。その時の光景が目に浮かぶようだった。にこにこと笑いながらそれを渡す手塚のお母さんと、無表情なままにそれを受け取っただろう手塚。

「...そんなに笑う事か？」

「ゴメン、つい。ねぇ、待ち合わせの時間は何時にする？」

手塚の制服の袖を引っ張って不二は聞いた。

「そうだな、9時と言う事でどうだ？」

「いいよ」

「では9時に迎えに行く。それでいいか？」

「うん。それじゃあ、その時間に用意して待っているよ」

明日の約束を交わし、二人は帰宅の途についた。

　　　　　　　◇　　　　　◇　　　　　◇

翌日、約束の時間の少し前に手塚は不二の家を訪ねていた。

「おはよう。さすが手塚、時間に正確だね」

9時少し前に家に迎えにきた手塚に、不二が言う。

「あら周助、手塚君と出掛けるの？」

ちょうど階段から降りてきた由美子が、不二に声をかける。手塚が居るのを見て、その事を悟ったようだ。

「うん。姉さん」

不二は由美子の方を振り返りにっこりと笑う。

「そう、随分朝早くから出掛けるのね。どこへ行くの？」

「遊園地だよ」

「遊園地？二人で遊園地に行くなんてまるでデートみたいね」

クスッとわらいながら、少しからかいを含んだ口調で由美子が言う。由美子の物言いには動じず、手塚は不二を連れ出した。

「...姉さんにデートみだいだって言われちゃったね？」

家から少し離れてから、不二は手塚に行った。

「あぁ...」

「ねぇ、これってデートなの？」

横に並んで歩く手塚の方をチラッと見ながら、不二は悪戯っぽい笑みを浮かべる。相変わらず手塚の表情はいつものままだ。

「そうだ」

「へぇ、...そうなんだ？」

お堅い手塚からまさかそんな返事が返ってくるとは思っていなかった不二は、少し驚いて目を開いた。自分で聞いておいてなんだが、手塚が肯定するとは思わなかったのだ。

「嫌なのか？」

逆に不二の反応に驚いたようで、今度は手塚が問う。公にはしていないが、恋人として付き合っている二人である。その二人が一緒に遊園地にいけば、それは単純にデートと行って良いのではないかと手塚は思っている。

「嫌じゃないけど、...ただ、君からそんな返事が返ってくるとは思わなかったから」

「そうなのか？」

「うん...」

不二の反応に今ひとつ納得がいかない手塚だったが、それ以上は追求しなかった。

　　　　　　　　　　◇　　　　　◇　　　　　◇

「あっ...」

「うっ...」

「あれ？」

「.........」

駅の改札口で見知った顔を見付けた手塚と不二はお互い顔を見合わせた。それは相手も同じだったようだ。同じ様に手塚達の姿を見付けた大石と菊丸も似た様な反応をしていた。

「偶然だにゃ～。不二達はどこへ行くところなの？」

菊丸が不二に訪ねた。

「遊園地だけど」

「えっ、ホント？俺達もにゃんだ～。大石のお母さんが福引きで招待券が当たったてくれたんだ」

「僕達も似た様な状況だよ。奇遇だね」

「そうだにゃ」

予定を変更して、ここから４人で行動する事になった。行き先が同じなら一緒に行こうと言う事になったのだ。

遊園地に着くと、休日だけあって人が多かった。

手塚達も色々な乗り物にのる事にした。幾つかの乗り物に乗った後、菊丸がある報告を指差した。

「次はあれに乗ろうよ」

「ちょっと待ってくれ英二。ジェットコースター系の乗り物にこれ以上続けて乗るのはちょっと...」

心なしか青い顔をして大石が英二の行動を止めようとする。ジェットコースター系の乗り物に乗れないわけではないが、連続して乗るは避けたいようだ。

「にゃっ、大石、気分が悪くなっちゃたの？」

「そうだね、少し顔色が悪いように見えるよ」

菊丸と不二が小石に声をかける。手塚も大石の様子を少し心配そうに見ている。

「あそこのベンチで少し休んだらどうだ？」

手塚が一点を指差してそう言った。その意見に他のメンバーも同意する。

「手塚、僕と英二が売店で何か飲みものを買ってくるよ。君は大石の側にいてあげて」

「わかった」

「...すまない、手塚」

大石が面目なさそうに言う。

「気にするな、それより気分は大丈夫か？」

「あぁ、手塚は何ともないのか？」

ジェットコースターに乗っている間も、手塚は始終いつもと変わらない様子だった。英二達のようにはしゃいで乗っていたわけでもなく、楽しんでいたのかどうかもよくわからなかった。

「あぁ、何ともないが」

「そうか...」

その答えに大石は皆いったいどう言う身体をしているんだと言いたくなった。最初に乗ったのが、ごくありふれたタイプのジェットコースター。その次に乗ったのが、スキーのリフトが連なっているようなタイプのもの。眼鏡や帽子は落とすと危険なので、乗っている間は外して下さいと言う注意書きがされていた。最初のジェットコースターから降りた時は何ともなかった大石だが、二度目のものから降りた時は、地面に立った時の感覚がおかしかった。平衡感覚が頼りなくなっているように思ったのだ。皆が何事もなかったかのようにケロッとしているので休みたいとは言い出せなかったのだが、さすがにまた違うジェットコースターに乗ると言われては話が別だった。これ以上は無理だと自己判断をする。だから英二を止めたのだ。本当は楽しんでいるところに水をさすようで嫌だったのだが、無理をしても仕方がないと。

「おまたせ、大石」

飲み物を買って戻ってきた菊丸が、大石の前にコップを差し出す。

「...有難う、英二」

コップを受け取った大石は、さっそくそれを一口飲んでみる。何となく落ち着いた気持ちになった。

大石の体調が戻ったところで、４人は再び行動を開始した。一通り園内を回った後、最後に観覧車に乗ろうかと言う事になった。観覧車には４人一緒に乗る事もできただが、最後だからと大石と菊丸、手塚と不二の二組に別れて乗る事にした。

「今日は楽しかったね」

「あぁ...」

「でも、今度は二人だけで来てみたいかな」

「そうだな」

本当は二人だけで遊びに来る予定だったのだ。４人で来る事になったのは予定外の事だったし、今度二人で来ると言う事に手塚とてやぶさかではない。

「約束だよ」

「わかった。たまにはこう言うところにくるのも悪くはないな」

手塚もまんざらでもなさそうに言った。

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