不二がその事を知ったのは、リョーマの家について暫くしてからの事だった。
不二にお茶を出してくれたリョーマの母が、自分達は今から出掛けて留守にするけれど、
ゆっくりしていってねと言ったのだ。リョーマからそんな話は一言も聞いていなかった不二は
内心驚いていたが、表面上はそんな事は全く出さずに有難うございますと返事をしていた。
そして、リョーマと二人で、玄関先までリョーマの母が出掛けるのを見送った後、不二は
リョーマに問った。                        
 「...今日、家の人誰もいないんだね?」               
 「.................」                           
不二が聞いてもリョーマは何も言わなかった。聞かなくてもわかるでしょと言われているようで、
不二は自分なりに結論を出そうとした。     
今日両親がいない事をリョーマは前もって
知っていたはずである。その上で今日自分を自宅に誘った理由とはなんだろうかと。
          
(誰もいないから寂しいから泊まりに来てって言ったわけじゃないよね...)
                               
リョーマの性格上それはないだろうと不二は思った。そして、まさかと思いつつ、
触れたくはない事。それをリョーマに聞くのは躊躇われて、不二は全く別の事をリョーマに言っていた。                「ねぇ、君、少し背が伸びた?」                  
 「成長期だから当然でしょ。そのうち先輩より高くなるから」     
 不二が聞くとリョーマはきっぱりとそう言った。           
 「僕もまだ伸びるかもしれないんだけど...」              
そう簡単に追い抜かれたくないなと思い、不二はリョーマにそう言ったのだが...。
                              
「そんな事より、先輩先に風呂使っていいっスよ」          
 リョーマは不二の抗議を無視して、そう勧めた。リョーマの中で、自分が不二よりも
身長が高くなると言う事は、絶対と言う事らしい。     
 「...有難う、そうさせてもらうよ」                  そんなリョーマに苦笑して
、不二はリョーマにそう言った。そして先に風呂を使わせてもらい、リョーマが風呂を使っている間に、
借りた布団を敷いてそこに横になった。

「先輩?」

風呂から出たリョーマは、自分の部屋に戻る前に台所から飲み物を調達してきていた。
それを片手に部屋に戻ると、既に不二は布団に入って横になっていた。持って来た
飲み物を机の上に置くと、リョーマは不二の寝顔を覗き込んだ。                          
 「先輩、狸寝入りしていると、このまま襲っちゃうよ?」       
 不二が起きていると言う事を確信してリョーマはそう言った。     
 「...起きたら、何もしない?」                    
布団から顔を上げずにそう言う不二に、リョーマは溜め息をついた。  
 「...そんなに嫌なんスか?いつもそう言う雰囲気になると逃げるよね」 
 「...............」                            
リョーマの問いに不二は答える事ができなかった。するとリョーマはそのまま今まで思って
いても聞けなかった事、それを不二に聞いた。     
「ねぇ、先輩。俺の事本当に好き?それとも本当は他に誰か好きな人がいるんスか?」
                            
(俺は誰かの身代わり?部長の?とは聞けないけれど...。先輩が本当は部長の事を好き
だったんじゃないのかとは...。だから俺とそう言う関係になるのが嫌なの?とは...)
                      
 リョーマがそう言うと、不二はやっと布団から身を起こした。
そして、心外だと言う表所をリョーマに向ける。                
 「何でそうなるの?」                        
「だって...」                           
 「他に好きな人なんていないし、君の事はちゃんと好きだよ。僕の言葉は信用できない?」                         
 少し傷付いたような顔をして、不二はリョーマにそう言った。
      
「そう言うわけじゃないっすけど...。ただ、付き合ってって言った時も、あっさり返事が返ってきたし...。
本気なのかなって...」        
 「...そんな風に思っていたんだ?嫌だったら、その場でそう言っているよ。僕も一つ
聞きたいんだけど...」                 
 「何スか?」 
                          
 「君とそう言う事をする時、君が僕を抱く気なの?」
         
 「当然でしょ」
                           
リョーマの言葉に、不二はやっぱりと溜め息をついた。
        
 「...あのさ、僕も男なんだよ?」
                   
 「知ってるっスよ。それがどうかしたんスか?」 
           
不二の言いたい事がわからずに、リョーマは首を傾げた。
       
 「...だからね、もう少し単純に考えてくれない?僕が君と一線を越える事を躊躇しているのは、
怖いから...何だけど」
             
 「怖いって?」
                          
 「怖いよ、君とそう言う事をするの」
                 
不二の言いたい事がようやく理解できて、リョーマは目を丸くした。まさかそんな理由から
拒否されているとは、思ってもみなかったのだ。    
「先輩でもそんな風に思う事があるんスね。怖いもの知らずにみえるけど...」 
                              
「酷いなぁ。ほら、ドキドキしているのがわかるでしょ?」       
そう言って不二はリョーマの手を取り、自分の左胸に触れさせた。不二の言う通り、
確かに鼓動が早くなっているのがわかる。          
「先輩がそんな可愛い事を言うとは思わなかった...」          
そう言ってリョーマは不二にキスをした。そして、片手でパジャマのボタンを外し、
不二の素肌に手を触れる。                
 「まだ怖い?でも、先輩を俺のモノにしたい...」            
そう言ってリョーマはパジャマの上着を開けさせて、不二の胸に顔を埋めた。
不二は抵抗しなかった。

その日リョーマは初めて不二を抱いた。

そして、その翌日。                        
 リョーマはハッと目を覚ました。                  
 「夢?」                             
 ガバッと起き上がると隣から...。                  
 「...夢じゃないよ、おはよう..」                    
少し掠れた声で不二がそう言った。昨夜リョーマに散々声をあげさせられた挙げ句、
何度も好きと言わされたのだ。おかげで、喉が少々痛い。  
 「...先輩怒ってる?」                       
 「怒ってる、かな...?」                       
「かな?って、先輩...」                       
オロオロするリョーマに、不二は悪戯っぽく笑ってみせた。      
 「許して欲しい?だったら僕の事好きだと言って。昨日散々人に言わせたんだから...」 
                          
 「先輩が好き、だから、側にいて...」                
 リョーマがそう言うと不二はにこっと笑っていいよと行った。すれ違っていた二人の心が、
その時ようやく結ばれた。

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