その日の放課後、部活が始まる前に、不二はリョーマに今日の帰り自宅に寄るように誘った。
リョーマはその誘いに頷いた。
           
自宅へ着くと、不二はリョーマを連れて自室へ入った。そしてすぐに、飲み物を取りにキッチンへと向かった。
そして戻ってくると、リョーマの座っている横に不二も腰を下ろした。
                
 「どうぞ...」
                            
そして、持って来た飲み物をリョーマに手渡して、飲むように勧めた。 
 ここに着くまでの間、二人の間には妙な緊張感の漂う空気が流れていた。
その為ほとんど会話もしなかった。リョーマにも、今日不二が自分を誘った理由はわかっている。
不二がそれをどう切り出すのかと、ひたすら沈黙を保っていた。リョーマに飲み物を勧めた後、
不二は自分も喉を潤した。そして気分を落ち着けると、お昼休みに菊丸にそうして見せたように、
リョーマにもシャツのボタンを外してそこに残る跡を見せた。
     
 「これ...。君が付けたんだよね?」 
                
 確認するように不二が聞くと、リョーマはあっさりと頷いた。
     
 「そうっスよ」 
                         
 果たして不二がどんな反応を示すのかと、リョーマはそれを認めた後、不二をじっと見つめた。
怒らせるかもしれないと言う事も、勿論予想の範囲内にいれてある。そう思って不二の反応を
伺っていたリョーマだったが、その後が取った行動は全くの予想外のものだった。
           
 何を思ったのか、不二は突然リョーマの前に顔を近付けてきた。
    
 そしてリョーマの唇に、自分の唇を重ねた。突然の事に呆気にとられて、リョーマは目を閉じる
事さえ出来なかった。そして、その感触はすぐに消える。リョーマの驚きをよそに、不二は
少し眉を寄せると不満そうに口を開いた。

「順番が違うよ」
                         
 「はぁ?」 
                           
 そして不二の口から出た言葉も、リョーマに取っては予想外のものだった。
                                
 「普通はこう言う事をする前に、手を繋いだり、キスをしたり、そう言う事から始めるでしょ?」 
                     
 拗ねたような口調で不二にそう言われて、リョーマは目を丸くした。
  
 「...だから、今、キスしたんスか?」 
               
 「そうだよ」
                           
 あっさりと頷かれてリョーマは天を仰いだ。まさかそんな事を言われるとは思っていなかった
のである。論点がずれているとも思った。普通はもっと怒って然るべきだろう。それにしても
色気も何も無いキスだったなと思いながら、疑問を口にする事にした。
                 
 「先輩、怒ってないの?それ付けた事」 
               
 リョーマは、その跡を指差してそう聞いた。不二はその言葉に、すぐに頷いた。
                               
 「怒ってはいないよ、驚きはしたけれど。それでさ聞きたいんだけど、何でこんな事をしたの?」

不二の言葉にリョーマは溜め息をついた。やっぱり何かずれていると思った。
                               
 「質問に答える前に、こっちも聞きたい事があるんだけど」
      
 「何?」 
                            
 「先輩、俺たち付き合っているんだよね?」
             
 リョーマが真顔でそう言うと、不二は首を傾げた。 
          
 「それ、この前も聞かれたよね。僕、そのつもりだって言わなかったっけ...」 
                             
 「だったら、こっちも言いますけど。付き合っているのなら、そう言う事をしたいって思っても当然でしょ?」
                  
リョーマの言葉に、不二は目を丸くした。 
             
 「それじゃあ君は、僕とそう言う事をしたいと思っていたんだ...」
    
 「先輩はそんな事は全く考えていないみたいでしたけどね」 
     
 多少の嫌みも含めて、リョーマがそう言うと、不二はまた少し考える素振りをした。
そして何を思ったのか、突然とんでもない事を言い出した。 

 「だったらさ、今からしてみる?」
                  
 「はぁ?」 
                            
先ほどのキスの時と同じく、色気も素っ気も無い誘いだった。本当にわかっているのかと、
リョーマは疑わしく思いながら口を開いた。
    
 「してもいいの?」
                        
 「いいよ...」 
                          
 「先に言っておきますけど、俺、あんたを抱きたいとは思うけど、
あんたに抱かれたいとは思ってないから」
                  
確認するようにリョーマが言うと、不二はわかったと頷いた。
      
そして今度はリョーマからキスを仕掛ける。先ほどの触れるだけのものとは違い、
舌を絡めとりながら深く口付けていく。
           
 唇が離れた時は、互いの呼吸が荒くなっていた。そんな不二の手を取って、
リョーマは立ち上がった。そしてベッドの方へと向かう。繋いだ手から、
互いの緊張感が伝わってくるかのようだった。横に並んでベッドに腰掛けると、
リョーマは不二の方にそっと手を伸ばした。


その日から数日が経った。その間、何事もトラブルはなく、
平穏な日々を過ごしていた。

そして迎えた週末。

学校の帰りに、リョーマは不二を自宅へと誘った。
          
 「越前...?」 
                          
 自宅を目前にしたところで、急に立ち止まったリョーマに、不二はどうしたのかと声をかけた。
そしてリョーマの視線の先に目をやると、そこに意外な人物がいるのを見つけた。
その人物がこちらに向かって歩いてくる。
 「ようチビスケ!」
                        
 軽薄そうな表情で近付いてくる人物に、リョーマは不機嫌さを隠さなかった。 
                              
 「何であんたがここにいるんだよ」 
                
 「冷たいな~。それが兄貴に向かって言う言葉かよ」 
         
 リョーマの言葉など全く気にしていないようで、リョーガはそう言った。
何をしにきたのかは知らないが、用がないのならさっさと姿を消して欲しいと思うリョーマだった。
そんな二人のやり取りを見ていた不二は、リョーマに向かっていつもの笑顔を向けた。
             
 「君の言う通り、顔以外はあんまり似ていないね」 
                         
 何を今さらと言う思いと、その緊張感の無い言い方に、リョーマはがっくりと肩を落とした。
それでも律儀に答えていた。
          
 「やっと、わかったんスか?」 
                  
 「うん...」 
                            
そんな二人のやり取りの意味がわからずに、リョーガは何なんだと言う顔をしていた。

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