「...今度は手塚まで帰ってこないにゃ」

「二人とも、いったいどこにいるんだ」

心配性の大石は、手塚まで戻って来ない事にオロオロしている。これだから、胃薬を常備するようなハメになるのだろう。

皆で探しに行った方が良いのではないかと言う案が出たが、二人が帰ってきた時にすれ違う可能性もある。結局良い案がでないまま時間だけが過ぎていった。

RRRRRRRRRR......

そうこう気を揉んでいると、大石の携帯が鳴った。着信は手塚からになっている。

「もしもし...」

電話に出る大石を横目に、皆携帯を持っているんだから、最初から電話すれば良かったんじゃんと菊丸が言った。皆どうようしていたらしく、携帯の存在を忘れていたのだ。

電話はわりとすぐに終わったようだ。

「大石~、手塚なんだって?」

「...不二を見つけたらしい。二人でこのまま帰るから、こっちはこっちで好きにしてくれと言われた」

「へぇ...」

「にゃ~、二人でフケタってこと?」

「そう言うことになるね」

「ラブラブじゃん。いいにゃ~」

チラッと大石の方を見て菊丸が言う。

「それじゃあ、今日はこの辺でお開きにして、ここからは別行動をとるかい?」

「それじゃあ、乾が寂しいじゃん」

「一緒にいて君たちに当てられるのと、どっちがいいかなって感じだけどね」

「にゃ?」

「カップル二組と行動を共にする事になった時点で、こう言う可能性も考えていたからね。ちなみに手塚と不二がホテルに向かった可能性は95%」

「!乾...」

なんて事をと大石は空いた口が塞がらない。

「ホテルかぁ~。俺大石とそんな所には行った事がないんだよね」

羨ましいなぁと言う菊丸の言葉を、乾は何気にメモに取っている。中学生なら行った事が無くて普通だろうと真面目な大石だけが、一人胃の痛む思いをしていたのだった。


「へぇ、こんな風になっているんだ」

乾の予想通り、二人はホテルに来ていた。部屋を借りるのに自動販売機で鍵を買うなんて初めてだと不二が言う。

「ねぇ、君は誰かと来た事があるの?」

手塚が慣れた様子で中へ入っていくので、ついそんな事を聞いてしまった。聞いておいて何だが、あると言われたら誰と来たのかと相手に嫉妬してしまいそうだ。

「いや、来たのは初めてだ」

「その割には、迷わず部屋の鍵を買っていたね」

「...聞いた事があったからな」

手塚がボソッとそう言った。聞く気はなくとも入ってくる人の話題から知ったのだと。手塚に猥談を振れるような強者がいるのだろうかと不二は疑っていたのだが、それを聞いて納得した。教室で誰かが話している話題にそう言った内容のものがあってもおかしくない。不二もそう言った話題を聞く気はなくとも聞いてしまった事があった。

「ねぇ、お風呂どうする?先に使う?」

部屋に入るなり、不二がそう聞いた。君が後でいいなら自分が先に使うよとバスルームに向かう。何故かその後を手塚もついてくる。

不二がバスタブにお湯を出して脱衣所に戻る。

「手塚?」

脱衣所入った途端、抱きしめられて耳元で囁かれる。

「一緒に入ろう」

「でも...」

「何だ?」

恥ずかしいよと言う不二に、手塚は今さらだろうと言い返す。なんなら脱がせてやろうかと、手塚の手が不二のシャツのボタンにふれる。

「自分で脱ぐから」

その腕を抜け出して、不二は服を脱いでいった。


コトが終わった後、不二は手塚の方へと倒れ込んだ。

「不二立てるか?」

「う...ん.....」

足元のふらつく体を支えてやりながら、バスタブから出てシャワーを浴びる。脱衣場に置かれていた、バスローブを着て部屋に入ると不二はベッドに倒れ込んだ。

「大丈夫か?」

手塚が水の入ったグラスを差し出しながら聞いてくる。

「.............」

仰向けに寝て無防備に投げ出された四肢。右手で不二の体を抱き起こして、手塚はグラスの水を口に含んだ。そのまま口移しで飲ませてやると、不二の喉が上下した。うっすらと不二が目を開く。

ぼんやりと焦点の合わない瞳。

「少し眠るか?」

その言葉を聞き終わるか終わらないかのうちに、不二の意識は落ちていった。


「...あれ?手塚...」

「目が覚めたようだな」

「僕...」

バスルームを出てからの記憶が少し曖昧になっている。

「のぼせたみたいだな。少しの間意識を失っていた」

ベッドに腰掛けた手塚が、不二の髪を撫でる。喉の奥で笑う手塚を、不二が睨みつけた。

「君が、あんなところでするから...」

「よくなかったか?」

顔を覗き込むようにして、手塚が聞いてくる。その表情には確信犯の笑みが浮かんでいる。答えを知っていて聞いてきているのだ。

そんな事を聞かないでよと不二が手塚の胸を叩く。その腕を手塚は掴んで、唇を寄せた。

「手塚...」

両腕を掴まれて、頭の横に固定される。

「桜の中で見たお前に酔ったからだ」

「よくそんな恥ずかしい台詞が言えるよね」

「相手がお前だからな」

「........っ......」

軽く唇を啄まれて、舌が忍び込んでくる。口内を犯すそれに不二もそっと舌を絡ませる。深い口付けに若いからだは、またすぐに火がついていく。

キスをしながら手塚が不二のバスローブの紐を解いた。

「ここに跡を残したい」

キスを唇から耳元、首筋へと滑らせた後、鎖骨の辺りに指を滑らせながら手塚が言う。

頬を染めて不二がそれを了承する。

白い肌に跡を残しながら、もう一度その体を抱くために、手塚は指を滑らせていった。


「起きられるか?」

手塚が不二の髪をかきあげながら聞いてくる。

「もう少し休ませて...。先にシャワー浴びておいでよ」

気怠げに言う不二に、手塚はわかったと言うとバスルームに姿を消した。落ちそうになる意識を、聞こえてくるシャワーの音がかろうじて引き止める。そのまま瞳を閉じていると、音はすぐに止んだ。

『起きないと』

ドアが開く音が聞こえたので、意識を覚醒させようとベッドの上に身を起こす。

ほどなくして、服を着込んだ手塚が部屋へ戻ってきた。

「大丈夫か?」

「うん...」

いつまでもこうしているわけにはいかない。

手塚と入れ替わりで、不二がバスルームに入る。シャワーのコックを捻って、少し熱めのお湯を出す。体に打ち付けるお湯が、意識を覚醒させていった。


「ねぇ、一人で歩けるけど...」

ホテルを出てからずっと、手塚に肩を抱かれたままだ。心なしか、触れている指先が熱い。

「足元がふらついているようだが?」

「こうやって肩を抱かれているところを、誰かに見られるよりはマシだと思うけど」

不二が手塚を見上げる。

「その時はその時だな」

「君って時々大胆だよね」

ハァッと不二はため息をついた。

「不二」

「何?」

「このまま家に来ないか?」

手塚が真顔で聞いてくる。

「...本気で足腰立たなくなったら、どうしてくれるのさ?」

「責任はとる」

どうやってと思いつつ、携帯電話を取り出して不二は自宅に連絡を入れた。


「あっ、不二~。クラス分け見た?」

掲示板の前で菊丸が不二に声をかける。

「うん。英二と同じクラスみたいだね」

「そうなんにゃ~」

「それじゃあ、一緒に教室へ行こうか」

「うん」

新学期。

新しい教室へ向かう生徒たちの中に、菊丸と不二の姿もあった。

「そう言えばさ、俺、不二に聞きたい事があったんだ~」

「何?英二」

小首を傾げて聞いてくる不二の耳元で、菊丸がボソボソと小声で何やら囁いた。

『ラブホテルってどうだった?』

「えっ、英二!」

「この前の花見の後、手塚と行ったんじゃにゃいの?」

「何でそんな風に思うの?」

内心の動揺を隠しながら、不二がいつもの笑顔で聞く。

「乾がさ~」

「乾?」

「二人が、あの後ホテルへ行く確率は95%だって言っていたからさ~。何か当たりだったみたいだね」

「まいったな...」

まさかそんな事を言われるとは思っていなかった不二は苦笑した。乾はいったい何のデーターをとっているんだか...。

「で、どうだった?」

好奇心いっぱいで聞いてくる菊丸に。

「大石と行ってみればわかるよ」

何でも無い事のようにそう言い返した。

「それがさぁ~、誘ったんだけど、嫌って言われちゃったんだよね~」

少々不満そうに菊丸が言う。

真面目な大石が苦悩する姿が、容易に想像出来てしまう。

「それは残念だったね」

自分で答える気のない不二は、にっこりと笑ってそう言ったのだった。

        

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