不二は皆がいる所から少し離れた場所で写真を撮っていた。前に来た時は桜がキレイだったなと思い出しながら、あの頃とは違った顔を見せている風景を撮っていく。

場所を変えて撮ろうと、川沿いから道路の方へ上がった時。

「あれ?不二...?」

声をかけられて相手の方を不二が振り向いた。そこにいたのは見知った人物だった。

「偶然だね。どうしたの?こんな所で」

不二がにっこりと微笑みながら言う。

「それはこっちの台詞かな。こんな所までわざわざ写真を撮りに来たの?」

「違うよ、皆と...レクリエーションかな?」

「レクリエーション?一人じゃないのか?」

「うん。皆向こうにいるよ」

「へぇ、手塚君がいなくて関東大会は大丈夫かと思ったけど、レクリエーションなんてやっているところを見ると余裕があるのかな?」

「さぁ、どうだろうね」

にっこり笑って答える不二に。

「あぁ、敵に情報はもらせないか」

相手もにっこりと笑って答えた。


やれやれとリョーマは、桜の木にもたれて昼寝をしようと座り込んだ。

「こらっ!おチビ~!こんなところに来て昼寝はないだろ~!」

ペシペシと菊丸に頭を叩かれる。

「痛いっス...」

「ほら、あっち行ってみようぜ!」

「別に、行っても面白いものなんてないと思いますけど..」

リョーマの言葉を聞き流して、菊丸はその腕を取って立たせると強引に引っ張っていったのだった。

こんな所にきて何が面白いんだか...。菊丸に引っ張られるように歩きながらリョーマは思った。普段テニスをやっているか、家でテレビゲームをやっている事が多いリョーマには、大石の思考は理解しがたい。

ふうっとため息をついた時。

「おチビ、隠れろ!」

「いたっ!何なんスか?急に...」

いきなり腕を引っ張られて、木の幹に隠れさせられる。

「あれ......」

言われて菊丸が指差す方向にリョーマは視線を向けた。

「不二先輩...?」

不二と一緒にいるのは、リョーマには見覚えの無い人物だった。

「不二ってば、あんな所でナンパされてる~」

「...............」

菊丸の言うように、ナンパかどうかはわからなかったが、とりあえず相手の男を観察する。

遠くから見ているのではっきりとした顔はわからないが、なかなか整った容姿の持ち主のようだ。

「手塚がいなくなった途端に、悪いムシがよってくるにゃんて...」

持てるのも大変にゃと菊丸が言う。

「...部長って、ムシよけだったんスか?」

「ある意味そうっしょ!手塚が側にいるだけで、気の弱いやつらなら近寄ってこれないもん」

「...ふぅん」

何となく説得力があるようなないような...。

「それにしても、あいつどっかで見たような...誰だっけ?」

「相手の男っスか?」

「そう......」

思い出せないにゃと菊丸が頭を抱えている。

「六角中の佐伯だな」

「うわっ、乾」

「...どっから、湧いて出るんスか」

いきなり背後から聞こえてきた乾の声に、菊丸とリョーマが驚いた声を上げた。

「君たちがこそこそと隠れているようだから、何があるんだろうと思ってね」

そんな二人の様子を全く気にせずに乾が言う。

「だからっていきなり出てこられたらビックリするだろ!で、誰だって」

「六角中の佐伯虎次郎。前にシングルスで不二と試合経験がある」

「そっか、それで見た事もあるような気がしたんだ。って、不二の奴何を敵と楽しそうに話しているんだよ~。六角ってこれからうちと当たるところじゃん」

「何を話しているのかは、わからないけど...」

「親しげっスよね...」

う~ん、と三人は首を傾げた。

にこやかに話している不二の様子からは、とても敵校の生徒と話していると言う雰囲気が感じられない。相手もにこやかに話している。

「ホントどう言う関係なんだろう」

「さぁ?そこまでは俺にもわからないな」

「出ていって聞いた方が早いかも」

「それじゃあ何の為に隠れたんスか?」

リョーマがあきれてそう言った時、佐伯の手が不二の髪に伸ばされた。

「わぁ~!不二~!」

シルエットだけ見ていると、キスでもするんじゃないかと言うシチュエーションに、隠れていた事も忘れて菊丸が飛び出していった。


「それで君は、どうしてこんなところにいるの?君も学校の連中と一緒なの?」

「いや、一人だよ。今日は練習が早く終わったから気分転換にね」

「そうなんだ」

「まさか、こんな所で知り合いに会うとは思わなかったけどね」

ハハッとさわやかに笑って佐伯がそう言った。

「そうだろうね、こんな時期に...」

「普通はそうかもね。前にもここに来た事があるの?」

「うん、桜の花が咲いている時期にね」

「それはキレイな光景だっただろうね。その時もこんな風に写真を撮っていたの?」

「まぁね...」

「機会があれば写真を見せて欲しいな」

「素人が撮った普通の写真だよ?」

興味の無い人が見ても面白くないよと不二がクスクス笑う。

「そうかな?」

「そうだよ、そろそろ僕皆の所に戻るね」

不二が踵を返そうとした時。

「あっ、不二...」

「何?」

「髪に葉っぱがついてるよ」

そう言って佐伯が不二の髪に手を伸ばした。

「わ~!不二~!」

「...英二?」

呼ばれた方を振り向くと、菊丸がこちらに向かって駆けてくるところだった。その後方にはリョーマと乾の姿もある。

不二に駆け寄った菊丸は、不二の腕にぎゅっとしがみついた。

「やぁ、久し振りだね」

佐伯が菊丸に言う。菊丸が佐伯の事を何となくしか覚えていなかったのに対して、相手はしっかり覚えていたようである。

「不二~、大石たちのいる所に戻ろうよ」

「...もしかして、探しにきてくれたの?ゴメンそろそろ戻ろうとは思っていたんだけど」

不二の言葉を聞いているのかいないのか、菊丸は佐伯の方を睨み付けるように見ていた。

「不二、引き止めて悪かったね。それじゃあ、関東大会で...」

そう言うと佐伯は、爽やかな笑顔を残して去っていった。不二も軽く手を振る。

「英二、お待たせ。行こうか」

不二が菊丸を促して、乾たちのいる所まで歩いていく。

「不二~、あいつと何をやっていたのさぁ~」

「何って、世間話かな」

「それだけ?」

「うん。どうしたの英二、機嫌悪そうだね」

「そんなんじゃにゃいけど」

「そう?」

でもそんな風には見えないんだけどなと、不二は思っていたが、それ以上は聞かなかった。

菊丸はその時、不二ってばしっかりとしているようで抜けているところがあるから、親友の俺がしっかりしなきゃと決意していた。不二は佐伯と笑顔で会話をしていたが、ああ言う奴ほど危険なんだと菊丸の勘が告げていた。さわやかに笑顔で話しかけてくるから、警戒心を持ちにくいのだ。菊丸がそんな事を思っているうちに、乾たちがいる所までたどり着いていた。

「やぁ.....」

「乾と越前も探しにきてくれたんだ?」

「そう言うわけでもないんだけどね」

乾はそう言って何やらノートに書き込んだ。

「何を書いているの?」

「ヒミツ」

面白いデーターが取れたんでねと言ってノートを閉じる。

「ふぅん...」

「不二先輩」

その時、それまで黙っていたリョーマが突然口を開いた。

「何?越前」

「そこ、しゃがんで」

何だろうと思いつつも、不二はその場にしゃがんだ。

「これでいいの?」

「そう.....」

そう言うとリョーマは不二に近付いて、その色素の薄い髪に触れた。二度三度と手のひらにサラサラと滑らせる。そこはちょうどさっき佐伯が触れた辺りだった。

「越前?」

リョーマの意図が掴めずに、不二がその名を呼ぶ。

「お祓い。もう立ってもいいっスよ」

そう言うと踵を返して、リョーマはスタスタと皆を置いて先に歩いていった。

「お祓いって何?」

「さぁ?にゃんだろ?」

突然のルーキーの不思議な行動がわからずに、不二と菊丸は顔を見合わせた。

「乾、意味わかる?」

「何となくね」

眼鏡を指で押し上げて乾が答えた。

「どう言う事?教えてよ~」

「ダメ、言ったら面白くないからね」

また何やらノートに書き込みながら、乾が菊丸の懇願を却下した。

「乾のケチ~」

「そんな事より早く戻った方がいいな。大石が、また胃の痛い思いをしているかもしれない」

菊丸の文句を軽く流して、乾が冷静に言った。

「そうだね」

「それじゃあ、行こうか」

前方を歩いているリョーマを追いかけるように、3人は早足で歩いていった。3人が戻った時には、一人でおそらくトレーニングでもしていたのだろうと思われる海堂も戻ってきていた。

「皆戻った事だし、帰ろうか」

部長代理の一言で、何となく無事に終わったレクリエーションだった。


「...何なんだいったい」

その日の夜。九州にいる手塚は、一人悩んでいた。

それは普段は連絡を寄越さない、菊丸と乾から届いたメールのせいだった。

菊丸からは『手塚~、はやく帰ってこないと大変だよ。こっちにはいつ頃帰るのさ?』と言う内容であり、乾からは『今日は面白いデーターを取る事ができたよ。君も大変だね』と言うものだった。

いったい何が大変だと言うのか。

大石からは、今日もいつものように業務連絡がきていたが、そこには大変だと思わせるような内容は何もなかったのだが...

                           end

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