携帯の音が鳴った。今日はこれで何度目だろうと、手塚はいい加減溜め息をつきたくなった。
そもそもの始まりは乾からの電話だった。      
何でも桃城と越前が誰かとデートをするらしい、面白そうだから出てこないかと言う内容のものだった。                    
やじ馬根性のないマイペースな手塚は、乾が話している途中でその電話を切った。                             
 これで終わったと思っていたのだが、時間をおいてからまた電話がなった。
これもまた乾からだった。話の内容はさっきの続きだ。
       
また話の途中で手塚は電話を切った。
                
 他人の恋愛問題に首を突っ込んでいったいどうしようと言うのか? 
  
 そんな事をしたいと思う気持ちが手塚にはわからない。気分転換に庭に出て池の鯉に
餌をやろうとしている時にまた乾から電話がかかった。   
 今度は不二と連絡が取れない、何か知らないかと言うものだった。
またも話の途中で手塚は電話を切った。                  
 不二が今どこにいるのかなど手塚は知らなかった。だからそう言えば良かったのだろううが、
これ以上くだらない事に巻き込むなと言う気持ちが先立ってしまったらしい。
                      
さすがにそれ以降、乾から電話がかかってくる事はなかったで、ゆっくりと本を読みふけっていた。                     
 あれから随分と時間が経っている。今度は何だと思いつつ律儀に電話に出る手塚だった。

「はい...」

「...手塚?」

てっきりまた乾からの電話だと思って、相手を確認せずに電話に出たのだが、
予想に反して電話の相手は不二だった。相手が不二だとわかって、見えない電話の
向こうで表情を和らげた手塚である。勿論そんな事は、電話の向こうの不二にはわからない。

「何だ?」

「ねぇ、今から出てこられない?」

「今からか?」

手塚の眉間に皺がよる。呼び出されるには、少々中途半端な時間だ。もうすぐ夕飯時である。

「そう、ダメかな?」

「...ダメと言うわけではないが」

出かける事に躊躇っている手塚に、不二が甘えるように言う。

「君とデートしたくなったんだ」

そんな風に言われては、恋人として断る事のできない手塚だった。

「わかった、どこに行けばいいんだ?」

待ち合わせ場所を聞き出すと、手塚は家を後にした。


ストリートテニス場。                       
 呼び出された場所に行くと、不二が手塚の姿を見つけて手を振ってくる。

「...待たせたか?」

「ううん。思っていたより早かったよ」

にっこり笑って不二が言う。そして、座っているベンチから立ち上がると、そこに立てかけて
あったバッグを肩にかけた。

「誰かとここで練習でもしていたのか?」

「そう言う事もあるかなと思って持って来たんだけど、結局使わなかったんだ」

「そうなのか?そう言えば乾からお前がどこにいるのか知らないかと電話がかかってきたんだが...」

「その件ならもう終わっているよ。乾ってばレギュラー全員に呼び出しをかけたみたいだね。
それで君のところにも連絡がいったんでしょ?そう言えば何でこなかったのさ?」

不二は手塚の方を見て、首を傾げてそうきいた。

「...他人の恋愛ごとに首を突っ込む趣味は無い」

「フフッ、真面目なんだから。来ていないのは君と海堂だけだったよ」

手塚らしいねと不二が笑う。

「お前も呼び出されて来たのか?」

「それが、たまたまここに居合わせちゃったんだよね。だから、呼び出されたと言うのは
ちょっと違うんだけど...」

でも、呼び出しに気付いていれば、その時はその時でやっぱり来ていたと思うと不二は
笑顔で言う。好奇心と言うよりは、おもしろがっていると言った感じである。そんな不二の
様子に、手塚はやれやれと溜め息をついた。

「それで、お前は何でここに来たんだ?」

「一度ストリートテニス場に来てみたかったんだ」

「そうか...」

「うん。君の腕が完治したら、一緒に来たいな」

「そうだな。ところで、他の連中はどうした?」

「皆帰ったよ。結局恋愛事って訳じゃなかったみたいだしね。乾たちのはやとちりだったみたいだよ」

「...全く、何をやっているんだ」

「いいじゃない。たまには息抜きも必要だよ」

眉間に皺を寄せる手塚を宥めるように、不二が取り繕う。

「不動峰の人たちや、聖ルドルフの人たちも来ていて楽しかったよ」

「聖ルドルフ...」

その名前に手塚が反応した。そこには不二の弟が通っているからだ。

「うん。裕太も来ていてね、デートしよって誘ったんだけど、振られちゃったんだ」

それを聞いて手塚は微かに眉を吊り上げた。自分が弟の代わりに呼び出されただけなのかと
思うと面白くない。そんな手塚の様子に気付いた不二が、手塚の右腕にそっと自分の腕を絡ませた。

「不二...?」

いつもなら、外でそんな事を不二はしない。手塚は内心、首を傾げていた。こんな風に甘えられるのも悪くはないが...。

「デートだから、たまにはこう言うのもいいよね?」

「あぁ...」

上手くはぐらかされたような気がする。今ひとつ釈然としない手塚の方を見上げるようにして、不二が付け加える。

「だいぶ薄暗くなってきているし、よっぽど近くにこない限り君だとわかることはないし、ね?」

「あぁ...」

それは、立場的にはお前も同じだろうと思いながら、手塚は不二の言葉に相槌をうった。
いつ知り合いに会ってもおかしくない場所で、こんな事をしているのだから。その答えに満足した
のか、不二は手塚に向かって微笑むと、絡めた腕に力を込めた。そんな仕草に手塚はドキッとする。
  
 今日の不二は珍しく半ズボンをはいている。薄暗い中に浮かぶ白い腕と白い足。
たったそれだけの事に手塚は動揺している自分に気付いた。    
不二から視線をそらす事が出来ない。

「手塚...?」

黙ったまま自分を見ている手塚に、不二が声をかける。絡み合う視線。  
手塚は不二の顎に、左手を添えて上を向かせると、軽く唇を触れあわせた。

「...大胆だね」

珍しい手塚の行動に、不二がクスクスと笑う。

「デートなんだろ?」

だったら、これくらいの役得はあってもいいだろうと、手塚は澄ました顔で言う。
薄やみを隠れ蓑にしているからこそ出来た事。

「そうだね。ねぇ、どこへ行こうか?」

「あまり遠くへは無理だな」

「うん...」

「なんなら、俺の家へ来るか?」

「でも...」

こんな夕飯時に家に行くのは迷惑だろうと、不二が遠慮する。

「今さらだろう」

不二が誘われるままに手塚の家に寄って、夕飯をご馳走になった事は今までにも
何度かある。その逆も。だから気にするなと手塚は言う。

「それは、そうなんだけど...。腕は、大丈夫?」

このまま手塚の家にいけば、何も無いまま終わるとは思えない。

「お前が暴れなければ大丈夫だ」

「酷いなぁ...」

不二は苦笑して手塚の背を軽く叩いた。

「グズグズしていると時間がなくなる。行くぞ...」

不二が行かないと言う答えは、はじめから選択肢の中にいれていないらしい。
確認のために聞いたと言ったところだろう。そんな手塚に苦笑すると、不二は
携帯電話を取り出して、家に電話を入れた。

そんな二人から少し離れた場所で。

「兄貴...」

その一部始終を遠めに見ていた不二裕太は、呆然とその場に立ち尽くしていた。
兄にデートしようかなんてからかわれて怒ったものの、皆が帰った後もその場を動かない
兄が気になって戻って来たのである。      
裕太が見ていたところ、皆が帰った後、兄は誰かに電話をしているようだった。
その後、ベンチに座って誰かを待っているような様子に、戻ってはみたものの、
声をかけそこなってしまったのである。         
その時点で帰っても良かったのだが、兄が誰と会うのかが気になって、こっそりと離れた
場所から様子をうかがっていたのが不幸の始まりだったような気がする。
                         
 しばらくすると、裕太もよく知っている人物がその場に姿を現した。   
練習相手をさせるために、兄は手塚を呼び出したのだろうかとその時は思った。
そして、練習相手ができるくらいなら、手塚の怪我もたいした事はなかったんだと
のんきな事を思ったりもした。            
ところが、そんな裕太の考えは、次の瞬間に見事に打ち砕かれた。兄の座っているベンチに
近付いていく手塚。その手塚の腕に自分の腕を絡ませる兄の姿。それを見た時は、一瞬
目の錯覚かと思って目を擦ってみた。  
しかし、見間違いではなかったらしい。まるで、恋人同士のような二人の姿。
                                
まさかと事実を否定したかった裕太をさらにどん底に突き落としたのは、二人の次の
行為だった。手塚の手が兄の顎の添えられて...。       
薄暗いとは言え、視力の悪くない裕太には、二人の姿はしっかりと見えていたのだった。
疑いが確信に変わった瞬間だった。突然知ってしまった事実に驚愕する。階段を降りて行き、
二人の姿がその場から消えても、裕太はしばらく呆然と立ち尽くしていた。


手塚の部屋。

夕食後、手塚は不二を連れてさっさと自分の部屋へ入った。      
 ドアを閉めるなり、手塚は後ろから不二を抱きしめた。手塚のなすがままに
、不二はその身を預けていった。

行為の後、不二は少し意識を失ってしまっていたらしい。目を覚ました時には、
身支度を整えられ、ベッドに横たえられていた。      

「目が覚めたのか」

「あっ、僕...」

「気を失っていたみたいだな」

手塚に言われて不二は、自分の頬がうっすらと染まるのを感じた。感じ過ぎて意識を
飛ばしてしまったのかと思うと恥ずかしい。

でも...。

「ねぇ、手塚」

「何だ?」

「またデートしようね」

「あぁ...」

こう言うのもたまには悪くないと思う二人だった。

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