2

部活中、リョーマは退屈で欠伸ばかりしていた。

期末テストが近くなり、練習自体が軽めになっている事も、そう感じる要因の一つなのかもしれない。
自分が誰かの練習試合を見ているだけの時は、尚更退屈だと思う。リョーマは他人の試合を見て
勉強すると言う事よりも、自分が試合を楽しみたいタイプだった。ただじっとしているよりも体を
動かしていたい。でも最近は、部活中練習試合をしている時も、退屈だとリョーマは思ってしまう
事が多い。3年生が部活を引退した今となっては、リョーマの練習相手を務められる者は限られてくる。
それも練習中退屈だと思ってしまう要因なのだろう。今ひとつ名前もよく覚えていない2年生の
先輩同士の試合をフェンスにもたれかかって見ていたリョーマは、眠気と戦っていると言うよりも
今にも眠りに落ちてしまいそうだった。

「立ったまま寝ちゃダメだよ、越前」

半分意識朦朧としていたところで、背後から突然声をかけられて、リョーマの眠気は一気に吹き飛んだ。

「不二先輩、どうしたんスか?」

突然現れた不二に、リョーマは何事かと尋ねた。3年生が部活を引退してから、不二が部活に
顔を出したのはほんの数回程度だった。一番顔を出していたのが菊丸で、不二はお供として
現れる事はあったが、一人で顔を出す事は滅多になかった。

「ちょっとね」

そう言って不二はリョーマを手招きした。本当はまだ部活中なので、勝手にフェンスの外に
出るのもどうだろうと言う感じだが、リョーマは気にしなかった。全く動じる事もなく、フェンスの
外に出たリョーマの目の前に、不二は買い物袋を差し出した。差し出された袋は結構な重さだった。

「何スか?これ」

「見ての通りだけど」

袋の中身は、リョーマがよく好んで飲んでいる缶ジュースだった。10本くらい入っているようで、
結構な重みである。

「それは、わかるんスけど...」

差し出されたものの意味がわからず、リョーマは首を傾げた。

「けれど何?これが好きだよね?寒くなってからも、変わらず飲んでいたし」

「確かに好きだけど。でも何で急にこんなものをくれるのか、理由がわからないっス」

話がどこまでもかみ合っていない。そこでリョーマは、その事をはっきりと口にした。

「昨日約束したよね。君が福引きで良い景品を当てたらご褒美をあげるって」

そう言って不二はにっこりと笑った。

「...ご褒美が、これっスか?」

「そうだよ、気にいらなかった?」

「いえ、別に...。ただ景品は結局俺が貰って帰っちゃったのに、先輩からご褒美まで貰って
もいいのかなって」

「そう言われると、そうなんだけど。まぁ、ご褒美って言うよりも、面倒な事を押し付けちゃった
お詫びと言うか、御礼ってところかな?」

「それって福引きに並ぶのが面倒だったから、俺に押し付けたって事っスか?」

「まぁ、そんなところだね。ちょうど良いところに君がいたから、あの列に並ばずにすんで
助かったよ」

「そう言う事なら、遠慮なくもらっておくっス」

「どうぞ遠慮するなんて君らしくもないし」

不二はリョーマの様子を楽しそうに見ていた。

「ねぇ、先輩?」

「何?」

「昨日の福引の景品の中に、先輩が欲しいものってあったの?」

「そうあらたまって聞かれても困るんだけど。特に欲しいものがあったわけでもないしね」

「そうっスね」

あの時悩んで損をしたとばかりに、リョーマ肩を竦めた。

「あまり長くいると練習の邪魔になるから、そろそろ行くよ」

手をひらひらと振った、不二は踵を返した。

昨日の偶然と、それの延長のような形で二日連続して不二と会ったリョーマだが、最近では
こんな風に会う事すら難しくなっている。

不二達3年生は部活を引退してしまったが、リョーマ達は毎日練習がある。以前に比べると、
どうしても会えない時間の方が多くなっていく。それは仕方のない事だった。不二が卒業して
高等部に、行ってしまえば、ますますそうなっていくだろう。

お互い会うための努力をしないといけないのだ。昨日家に帰ったリョーマは、沖縄旅行の
引換え券を父に渡した。リョーマからチケットを受け取った南次郎は、最初ぽかんとした顔を
していた。まさかそんな景品を引き当ててくるとは思ってもいなかっただろう。だがすぐに
いつもの南次郎に戻って、嘘寒い言葉でリョーマをほめ始めた。

それをリョーマは、適当に聞き流しチケットを南次郎に押し付けて自分の部屋へ戻った。
その途中、沖縄は冬とは言え暖かいから、海に行けば水着のお姉ちゃんに会える
かもしれない等と軽口を叩いていたのが聞こえてきた。

その時は、父の姿を見て、どこか馬鹿馬鹿しい気持ちになったものだ。結局今回の事で
一番得をしたのは、南次郎だけではないかと。

でも今は少し考えを改めている。

昨日の偶然がなければ、今日不二が会いにくる事もなかったのだし、そう考えると福引き券を
押し付けた父に少し感謝する思いだった。

その後は期末テストがあったりして、お互いに会えないまま時間だけが過ぎていった。

リョーマが次に不二と会えたのは、自分の誕生日だった。

       next     小説目次へ



̎q bGf biXJ biPhoneC