渡米して初のジュニアの大会で、リョーマは見事優勝した。

その事を電話の向こうに不二に告げて、こちらへ来ると言う約束を忘れていないか念を押す。
電話の向こうで念を押す様に確認をするリョーマに、不二は笑いながら改めて渡米する約束をした。
近日中にリョーマの元を訪れると。

そして、その日がやってきた。

不二がリョーマの元を訪れる事になっていた約束の費。本当は空港までリョーマは不二を
迎えにいくつもりだった。それが出来なくなったのは、急に小さな大会への参加が決まった
為だった。大会の時間と、不二が空港へ到着する予定の時間とが重なってしまったのだ。

旅行中借りていると言う不二の携帯番号は一応教えてもらっていたので、そちらへリョーマは
連絡を入れる。急に迎えに行く事ができなくなった事を不二に告げると、それなら試合会場の
方へ行くよと言う返事が返ってきた。その言葉に頷くと、リョーマは会場までの行き方を不二に
教えた。久し振りに会う事が出来る。不二の到着を、リョーマは楽しみに待っていた。ところが
試合が終わって暫くたっても、不二が会場に姿を現す事はなかった。もしかして道に迷ったの
だろうかと思いながら、リョーマは何度も携帯に電話をしたのだが、不二がそれに出る事は
なかった。仕方なくリョーマは留守電に、アパートへ帰ってそちらで待っている事と、連絡が
欲しいと言うメッセージを入れた。

アパートに帰った後も、やはり不二からの連絡はなかった。どうしたんだろうかと思いながら、
リョーマは何気なくテレビのスイッチを入れた。流れて来たのは、ニュースの報道番組だ。
どこかのコンビにに強盗が入り、今も従業員と客を人質に取り立て籠っていると言う事だった。
あっては困る事件だが、今までにも似た様な事件は起こっている。最初リョーマはこのニュースを
軽く聞き流していた。この事件と自分が関係あるとは思えなかった。

つけっぱなしにしていたテレビから、事件の概要がどんどん流れてくる。何とか犯人の目を
逃れて危機を脱した従業員の一人から、事件のあらましが警察に伝えられたのだ。その内容を
聞いた時、リョーマはまさかと言う思いでいっぱいになった。

人質の中に外国人も数人含まれていると言うのだ。それが日本人だと言う報道は出なかったが
何か嫌な予感がした。普段ならそんなやじ馬のような真似はしないリョーマだったが、
今回は勝手が違った。今まさに事件が起こっている現場へ駆け付ける為、リョーマは
慌てて家を飛び出した。

          ◇     ◇    ◇

リョーマが現場に駆け付けた時、そこには多くの警察官と市民が集まっていた。最初犯人の
要求をのむふりをして機会を伺っていた警察は、事態が進展しない事から強行突破する事を
決めたようだ。危険さからと、リョーマ達一般市民は、現場から離れているように指示をされる。

そして周囲を取り囲んでいた警官達が、内部への突入を開始した。途中何度も銃を撃つ音が
聞こえた。だがそれもすぐに聞こえなくなった。やがて辺りがしんと静まり返った頃、外に
待機したままだった警官達もコンビニの中へと入って行った。どうやら犯人と警官だけでなく、
人質となっていた人達の中にも怪我人が出たようだ。待機していた救急車に中から運ばれて
きた怪我人が乗せられていく。

「不二先輩!」

その中にあって欲しくなかった不二の姿を見付けて、リョーマは思わず叫んでいた。
意識をなくした不二の腕等にも血痕が残っている。怪我の具合はわからないが、軽い怪我と
言うわけではなさそうだ。不二の容態が心配で、リョーマはどうにかなりそうな気持ちを抑え
冷静であろうとつとめる。知り合いである事を救急隊員に説明し、自分も不二と同じ救急車に
乗せてくれるように頼む。その甲斐あって、リョーマは不二と同じ救急車に乗り込む事が出来た。

病院に着いた後、リョーマは日本にいる不二の家族に連絡を取った。今リョーマの出来るのは、
待つ事だけだった。病院の廊下で、ひたすら待つ。結局その日、不二が意識を取り戻して
病室から出て来る事はなく、家族でもないリョーマはアパートに一旦帰るしかなかった。

アパートに帰った後も、何だか落ち着かない。いつもなら誰よりも睡眠時間を取っている
リョーマだが、その日はほとんど眠れなかった。

翌日病院を訪れると、そこには日本から駆け付けて来た不二の家族の姿があった。何か
あったら知らせるから帰って休んでいるようにと言う事と、知らせてくれた事の礼をリョーマは
不二の家族から伝えられる。突然の不幸な出来事に、家族も憔悴している様子が見て取れる。
自分がこの場にいるのは、かえって迷惑なのかもしれないと思い、リョーマは言われた通り
アパートに戻って連絡を待つ事にした。面識のある不二の姉に自分の連絡先を書いたメモを
渡し、リョーマは一人アパートへと戻った。

その翌日の事だった。

不二の弟の裕太が、リョーマのアパートを訪れたのは。

「兄貴は死んだよ」

告げられた言葉の意味が、一瞬理解出来なかった。自分を詰る裕太の言葉もリョーマの
耳には入っていない。

嘘だと思いたかった。

もう会えなくなるなんて、そんな事は考えた事もなかった。渡米した時、離れていても
その気になればいつでも会えると、どこかで思っていた。

気が着いた時には、裕太の姿は消えていた。

一人残されたリョーマは、ただその場に呆然としていた。

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