「ただいま...」 「随分遅かったんだな兄貴」
不二が家の玄関を開けると、そこには弟の裕太が立っていた。
「裕太」
「遅くなる時は家に電話くらいしろよ」
「そうだね、ゴメン。もしかして何かあったのかと心配して、待っていてくれたの?」
「そんなんじゃねーよ」
そう言うと裕太は不二に背を向けた。ぶっきらぼうに言う弟の態度を、この時の不二はそれほど気にも止めていなかった。
裕太と入れ違いに、今度は姉の由美子が顔を出す。
「今日は遅かったのね、周助」
「うん。今、裕太に怒られちゃった。こう言う時は家に電話しろって」
「貴方が普段こんなに帰るのが遅くなる事ってないでしょ。あの子、事故にでもあったんじゃないかって心配していたから」
「姉さんも心配した?」
「当たり前でしょ、部活にしては今日は遅かったもの」
不二の頭を軽く小突いて由美子が言う。
「ゴメン、心配かけて...」
「今度からは裕太の言う通り、遅くなる時はちゃんと連絡してね」
「わかったよ」
「それで今日は何で遅くなったのか理由を聞いてもいい?」
「テニス部の同級生と一緒に寄り道していたんだ」
友達ではなく同級生と言う言い方をした不二の言葉に、由美子は眉を寄せる。
「同級生?お友達なの?」
「はっきり友達だって言える程仲良くしているわけでもないけど」
「それなのに一緒に寄り道をしてきたの?」
「そうだけど...」
「あなたよっぽどその子の事を気に入っているのね」
不二の答えを聞いた由美子は、感心したようにそう言った。
「えっ.........?」
由美子の言葉に、不二が驚いた声を上げる。
「そうでなければ、まだ友達とも言えるかどうかわからない子と部活の帰りに遊びにいったりしないでしょ」
無自覚の行動だったのかと思いながら由美子はそう言った。一見人当たりの良い弟が、その実あまり親しくない人間には、距離を置いた付き合い方しかしない事を由美子はよく知っていた。
由美子の言葉は、不二に自分自身無自覚だった事を妙に納得させるものだった。
自分は手塚と友達になりたかったのかもしれない。その日不二はそう思った。
手塚と初めて学校以外の場所で練習試合をした日。
その日以降不二は何度も手塚と部活以外のところで練習をする事が多くなった。学校を離れた場所を使うのは、お互い誰にも気を遣わず思いきりテニスを楽しめるからと言うのが理由。
それに手塚と仲がいい大石が、菊丸とダブルスを組むようになって、手塚よりも菊丸との練習の為に時間を多く取る様になったのも原因の一つだろう。
それまで友達と言えるかどうかもあやしいくらいだった二人の関係は、その日を境に変わっていった。
そして2年に進級する頃。
テニス部で手塚は上級生を差し置いて堂々と部内でNO1の実力者として、認められる様になっていた。
そして不二はいつの頃からか天才と呼ばれる様になっていた。
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