謁見の間。

室内の奥にある王座には、プライム王国の王、その人が座っていた。

テヅカの祖父であるプライム王国現国王は、老齢の身で有りながら今も隙のない
威厳ある印象を見る人々に与える。テヅカが謁見の間に入った時、室内はシンと
静まりかえっていた。どこか緊張感の漂う室内に、テヅカは平然と歩みを進めていく。
謁見の間には、王の側に立つ側近姿があった。その隣には、テヅカを呼びに来た侍従長の姿もある。
　　　　　　　　　　
そして、王の前に控える様に、身覚えのない一人の人物の姿がある。

まだ若い男だ。テヅカとそう年も変わらない程の。

その人物が他国の使者だと言う事は、事前に侍従長から聞いているのでわかっていた。

問題はその用件が何であるのかと言う事だ。わざわざテヅカが呼ばれたと言う事は
、相手の用件と何か関係があるのだと言う事。

それはわかる。

テヅカは改めて使者の男の顔を見た。

色素の薄い髪の背の高い男。その様相から、北の方の国の出身だろうと言う事は察せられたが、
わかるのはそれだけだ。男の顔に見覚えはない。

「こちらへ」

謁見の間に姿を見せたテヅカを、王は自分の側へと呼び寄せた。テヅカは招かれるままに
王の側へと寄った。王座の横に、側近達が立っているのとは反対側にテヅカが立つ。

「使者殿、紹介しよう。我が後継者だ」

王はテヅカと使者を引き合わせた。使者の男は王に向かって一礼すると、
テヅカの方へと視線を改めた。

「テヅカ様ですね？私は、アイスキングダム王国の者です。我が王より、テヅカ様に
用件を伝えるよう言い付かって参りました」　　　　　　　　
　使者の男は、テヅカに向かって深々と頭を下げた。
　　　　　　　　　　
　「アイスキングダム王国のアトベ王からか？」
　　　　　　　　　　　　
　相手がアイスキングダム王国からの使者だとわかり、テヅカの表情が微かに曇る。

「さようにございます」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「我が王は、近々テヅカ様に会う為に、このプライム王国を訪問したいと申しております。
その許可を頂けないでしょうか？」　　　　　　　　　　
用件を聞いたテヅカは、チラッと王の方に視線を向けた。その仕草に気付いた王は
、軽く頭を縦に振る。それは即ち、その話を受けるも断るもテヅカの判断に任せると言う合図だ。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「使者殿、アトベ王にお伝え下さい。プライム王国は、貴方の訪問を歓迎しますと」

テヅカは迷う事なく、使者にそう返答した。

「有難うございます。我が王もさぞ喜ばれる事と思います」　　　　　　
　使者は、テヅカの返事にほっとしたような表情をする。自分の感情を隠すのが苦手なのか、
思った事がすぐ顔に表れるようだ。　　　　　　　　　　
その世慣れていない雰囲気から、こう言った使者として使われるのは、もしかしたら今回が
初めてだったのではないかと思われる。

使者の男がアトベの訪問の希望日時を告げる。

テヅカはそれに頷いた。これで用件は終わったのだ。

「使者殿、長旅でお疲れでしょう。部屋を用意させましたので、そちらで休んでから
お国の方にお戻り下さい」

王の側にいた侍従長が、使者の男にそう勧め、二人は室内から姿を消した。
その後に続いて、王の側近も室内から姿を消す。

謁見の間には、王とテヅカの二人だけが残される事になった。

「あっさりと承諾したが、それで良かったのか？」

側近と支社の姿が室内から消えた後、王はテヅカにそう尋ねた。テヅカの判断に委ねたものの、
相手の真意をはかりかねているのだろう。王がそう思うのも無理はなかった。プライム王国とは
、今までに交流はなかった。そんな国の王から突然テヅカを訪ねたいと言う訪問の申し出を受け、
王もその判断に迷ったのだろう。だからこそテヅカ本人に、その判断を委ねたのだ。

「相手の目的ははっきりとしています。表向きは自分に会いに来ると言う事になっていますが、
彼が本当に会いに来ようと思っている相手は自分ではないでしょう」

テヅカはそう言うと、フジとアトベの関係を王に伝えた。前回報告した時にフジの素性は告げてあったが、
その交友関係までは教えていない。　　　その時には、必要ないと思われたからだ。他にフジの
素性を知る者達が数人いると言う事は一応報告してあったのだが、どこの誰かと言う事までは
言ってなかった。彼等がフジの事を口外する心配はないとだけ伝えてあったのだ。

王はテヅカの話に静かに耳を傾けている。

アトベが訪ねて来る事に関して、テヅカは多少の複雑な思いがある。フジに対するただならぬ
思いを知っているだけに、二人を引き合わせる事を素直には喜べない。

けれど二人が幼馴染みであり、これから知り合いのいないプライム王国で過ごすフジの事を思うと、
その申し出を断る事は出来なかった。幼馴染みが訪ねてくる事を知れば、フジも喜ぶだろうと言う
気遣いからだ。　　　
テヅカが使者の申し出を断らなかった理由は、他にもう一つある。

突然のアトベからの申し出。

テヅカは咄嗟に自分の感情は後回しにして、この際アトベの訪問をこちらの都合に利用させてもらう事を思い付いた。

これで問題が解決する。

テヅカは、その事を確信していた。

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