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「どれくらい歩いたんだろう？」　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　
目の前に広がる砂漠地帯を見ながら、フジが独り言のように呟いた。　　　
「３分の１くらいってところじゃないかな？」　　　　　　　　　　　　　
全く風景が変わらないので、本当にそんなに進んでいるのかはわからない。
４人は今、ライズメア王国の城下町を出て、隣国であるスクオッシュ王国へ
と向かっている。ライズメア王国とスクオッシュ王国の間には、砂漠地帯が
広がっていて、そこを越えないと互いの国へ入れないようになっている。
砂漠は一応ライズメア王国の領土となっているが、そこの人は住んでいない。
時々両国を行き来する旅人たちが通りかかるくらいだ。　　
　ライズメア王国から方向を間違えずに歩いていけば、丸一日くらいで
スクオッシュ王国の領土が見えてくる。ライズメア王国を出る時に、
日差しを避ける為の布を買い、４人は今それを頭から被って歩いていた。　　　　
　他にも携帯用の食料と、水を街を出る前に少し多めに準備していた。
予定通りに辿り着けなかった時の事を考えてである。

「まだ、そんなものなんだ...」

「多分ね」

「それなら、皆、ちょっと足を止めてもらってもいいかな？」

ユキムラの答えを聞いて、フジがそういって皆を集めた。　　　　　　　
　「何をするつもりなのかな？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「すぐにわかるよ...」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
そう言うとフジは、精神を集中した。フジの周りで白い光が突然閃いた。
そして、その光の効果はすぐに現れた。　　　　　　　　　　　　　　　　
　「...暑さが、随分和らいだね」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「こんな魔術の使い方もあるんだな」　　　　　　　　　　　　　　　　　
「これなら歩くペースを早められそうだ」　　　　　　　　　　　　　　　

魔術の効果に、それぞれが感想を述べる。　　　　　　　　　　　　　　
　「あまり長くこれを続けるのは無理だけど、半日くらいならなんとかなると思う」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
魔術を使うのは、それなりに精神を消耗させる。

暑さがだいぶしのぎやすくなった事で、一行の歩くペースは上がった。
この調子なら、予定通り、明日にはスクオッシュ王国へ入れるものと思われた。

テヅカ達とは別の方向から来た二人連れの旅人に出会ったのは、途中で
一度休憩を取る事にし、一行が足を止めようとした時だった。

すれ違い様、旅人達のようすがやけに緊張しているように見えるのが
きになったが、害はないだろうと言う思いテヅカ達はその事を深く追求する
気はなかった。相手は老婆と少女の二人連れだ、自分達に害を成せると
は思わない。他にも気になる事はあったが、人にはそれぞれ事情があるの
だろうと思い、声はかけなかった。

「おばあちゃん！しっかりして...」

テヅカ達の側を通り過ぎた直後、老婆がその場に倒れ込んだ。

少女の悲鳴に、一行は振り返る。

「どうしたんですか？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
目の前で倒れ込まれては放っておく事もできず、フジが少女に声をかける。

「おばあちゃんが...」

少女は泣きそうな顔をして、フジを見た。フジは少女から視線を倒れている
老婆の方へと移して、その様子を観察する。　　　　　　　　　　　　　
跪いて老婆の額に手を触れると、焼けるように熱かった。砂漠の暑さに疲労が
重なって、体力が限界に達したのだろうと思われる。　　　　　　　　
「熱がかなり高い。まずは熱を下げないとね」　　　　　　　　　　　　
　心配そうに見ている少女にそう言うと、フジは腰に下げた袋から熱冷ましの
薬を取り出して老婆の口に含ませて、ゆっくりと水を飲ませた。　　　
　「これでしばらくすれば熱は下がると思うけど...」　　　　　　　　　　　
「有難うございます。良かった、おばあちゃん...」　　　　　　　　　　　
少女はほっとしたのか、跪いて祖母の手を握った。

「おかしな方向から姿を現したような気がしたんだが、お前達はどこから来て、
どこへ向かうつもりだったんだ？」

それまで黙って様子を見ていたテヅカが、少女にそう尋ねた。少女達とすれ違っ
た時から気になっていたのだ。この砂漠を通る旅人があるとすれが、
それはテヅカ達のように、ライズメア王国からスクオッシュ王国へ向かうか、
その逆からくるかの二通りのはずなのだが、少女達はテヅカ達の進行方向の
右側から現れて左側へ行こうとしていた。それだと中央の間の森から海の方へ
と向かっていると言う事になる。それは、おかしいと感じていたのだ。テヅカ達は
太陽の位置から方角を確認していたので、進む方向を間違ってはいないはずだった。

「私とおばあちゃんは、スクオッシュ王国からこの砂漠へ入って、ライズメア王国を
目指していたんですけど、途中で方向を間違えたらしくて...」
「では、何日もこの砂漠を彷徨っていたと言う事か？」　　　　　
　　　
　「はい、多分５日くらい...」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
テヅカに聞かれて少女はそう答えた。確かに砂漠ではこれといって目印を
見つけるのは難しい。それでも進む方向を間違えたとは言え、丸一日くらいで
いける距離を５日も彷徨えると言うのがある意味凄いと言える。　　　
どうやら少女は、かなりの方向音痴であるらしい。　　　　　　　　　　
　話を聞くと、少女はスクオッシュ王国から、祖母と二人でプライム王国に
居る両親の元へと行こうとしていたらしい。　　　　　　　　　　　　　　
スクオッシュ王国からプライム王国へ行くには、一旦ライズメア王国を
通っていくしかない。そして準備を整えて砂漠に入ったまでは良かったが
、その後方角がわからなくなり、手持ちの食料と水も少なくなってくる。
老婆は、自分は我慢して、孫である少女により多くの食料と水を与えた
のだと言う。砂漠で水と食料もなくなり、とっくに体力は限界にきていたの
だろう。そして、とうとう倒れてしまったと言う事らしかった。　　
　「おばあさんの熱が下がったら、ライズメア王国の方へ向かうんだよね？
方角がどっちかわかる？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
心配になってフジが少女に聞いた。　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「えっと...、あっち、ですよね？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　
少女が指差したのは、先程彼女達が来た方向だった。それを聞いた４人は、
思わず溜め息をついてしまった。このまま別れた後、無事ライズメア王国まで
辿り着けるのかと心配になってしまう。

「僕が、魔術で二人をライズメア王国まで送るよ...」　　　　　　　　　　

少女のあまりの方向音痴ぶりに、思わずフジがそう申し出た。本当は
そこまでする必要はないのだろうが、このままでは少女はまた進む方向を
間違えそうに思えた。

「あの....」

話の展開に少女はおろおろとした。

「そうしてもらった方がいいと思うよ」

苦笑しつつ、ユキムラがそう言った。

「おばあさんの意識が戻ったら、そうするから」

「はい...」

フジにきっぱりとそう言われて、少女は戸惑いながらも頷いた。
話を聞いているうちに彼女の祖母は目を覚ました。

「...ここは」

「おばあちゃん、気が付いたのね」

「サクノちゃん、この人達は？」

そう言って老婆は、テヅカ達に視線を向けた。その視線が、
フジのところで一瞬止まる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「覚えてない？おばあちゃんが倒れる前にすれ違った旅の人たちよ。
この人たちが助けてくれたの」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「それは、ご親切に...」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「お加減はいかがですか？熱冷ましの薬を飲ませたんですが、
少しは楽になりましたか？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
フジが聞くと、老婆は小さく頷いた。　　　　　　　　　　　　　　　　
　「えぇ、だいぶ楽になりました」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
老婆はそう言って立ち上がった。完全にとはいかないようだが、
熱は少し下がったようである。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「そうですか、では、今からあなたとお孫さんを魔術でライズメア王国
付近まで送ります。まだ体調が優れないようなら、街に入ってから
、薬師に診てもらうなりして養生して下さい」　　　　　　　　　　　　　　　　
　そう言ってフジは、二人に体の力を抜くように指示した。そして精神を集中する
。フジが口の中で何やら小さく呪文を唱えると、前に突き出された両手から
光が迸り、少女と老婆の周りを囲った。ほんの一瞬のうちに、少女と
老婆の姿はその場から消えていた。

「テヅカ、君が自分の国にこんな優秀な魔術の使い手を隠していたとは
知らなかったよ」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　テヅカだけに聞こえる様な小声で、ユキムラがそう言った。　　　　　　
　「....................」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　テヅカはそれに答えなかった。いや答えられなかったと言った方が正しい。
ユキムラ達と同様、テヅカもフジとは数日前に知り合ったばかりなのだ。
仲間にはしたものの、その実力はテヅカにとっても未知数だった。　　
ユキムラが感じたように、フジがかなりの魔術の使い手である事は
テヅカにもわかる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「どうしたの？」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
一仕事を終えて背後を振り返ったフジは、テヅカが自分をじっと見ているのに
気が付いてそう聞いた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「いや、なんでもない。とんだ休憩になってしまったが、そろそろ出発しようか」

４人は、再びスクオッシュ王国を目指して歩き始めた。

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