「今ダッシュが遅れたぞ!でも、手首の使い方は良かったな」

青春学園中等部のテニスコートでは、今日も部長代理である大石の一人アメとムチがとんでいた。

「頑張ってるね、大石」

ちょっと空回りしている気もするけどと菊丸が言う。頑張り過ぎて時々ブラックになっていると言う噂もある。

以前のさわやかだった大石とは違い、何やら策略を巡らせているところが、性格がかわったと言われてしまう原因だろう。

「手塚がいない穴を、埋めようと大石なりに必死なんだろうね」

「ホント真面目なんだから~」

「真面目って言うか、よくわからない頑張り方してるっスよね」

先日やらされた変な相性テストの事を言っているらしい。あれとテニスとどう結びつくのかいまだに納得いかないリョーマだった。

「おチビは、よっぽどあの心理テストが嫌だったんだなぁ~」

菊丸がリョーマの頭をグリグリしながら言う。

「...菊丸先輩、痛いっス」

「あれってダブルスのペアを決めるためのものだろ?越前には関係ないだろうしね~」

最近ダブルスでも活動する事の多くなってきた桃城言う。

「.............」

以前なら、桃先輩だってダブルスに向いてないじゃんと言えたのだが。

とりあえず黙っている事にしたリョーマだった。

「レギュラーは全員残ってくれ!他の者は片付けて帰ってよし!」

部長代理からの号令がとんだ。

「にゃ~、レギュラーだけ残れってさ。何だろう?」

「英二も聞いてないの?」

「うん。最近大石ってば、一人で張り切りすぎ!」

忙しくて構ってもらえないのか、菊丸が唇を尖らせて不満そうに言った。手塚がいなくなったしわ寄せがこんなところにも出てきているらしい。

「よし!全員そろったな。明日の事なんだが、レギュラーは全員練習はなし。そのかわり一緒に行ってもらいたいところがある」

さわやかな笑顔を浮かべながら大石が言う。

「行ってもらいたいところ?」

「どこっスか?」

「それは明日になったらわかるから。放課後、校門前に集合してくれ」

「............」

「何なんスかね...」

「さぁ........?」

「また大石の青春モードが入ったんじゃあ...」

あくまでも爽やかに言い切り更衣室に向かった大石をしり目に、レギュラー達は各々言いたい事を口にしていた。


翌日の放課後。

「よし、皆そろったようだな。それじゃあ行こうか」

「結局どこへ行くんですか?」

皆を代表して桃城が聞いた。

「着いたらわかるよ」

そう言って大石が皆を連れて来た場所は...。


「ここは...」

「前に花見に来たところじゃん」

あの時も大石が皆をここへ連れて来たのだ。河村以外の3年レギュラー達はこの場所に見覚えがあった。

「練習ばかりでなく、皆にたまにはゆっくりしてもらおうと思ってね」

大石がそう言った。たまには自然の中でゆっくりと過ごそうと言う事だろう。

「これって帰ったらマズイっスか?」

有無を言わさずに連れてこられ、協調性の無いリョーマが横にいる桃城に聞く。

「マズイだろうな」

マズイよと桃城が言う。諦めてつき合った方がいいと言うことらしい。

「今日は、どんなデーターが取れるかな...」

「い、乾先輩。何ノート何か出しているですか」

こんな時にまで何のデーターを取るつもりなんだと、思わず後ずさりながら桃城が聞いた。

「フフッそれはヒミツ」

「ケッバカらしい」

一人で行こうとする海堂に乾が声をかける。

「1時間くらいたったら、ここへ戻ってくるように」

その言葉に海堂は頷いた。

「はぁ...、まぁ、グダグダ言っていてもしょうがねーし楽しむか」

そう言って桃城は川の方へ歩いて行った。川辺で靴を脱いで水に足をつけている。

「おっ、水が冷たくて気持ちいい~。越前、お前も来いよ」

桃城が、手を振ってリョーマを呼ぶ。

「やだ...」

「お前なぁ」

先輩の言う事は聞けよ、協調性がないなぁとブツブツ言っている桃城の足元を何かがかすった。

「おっ魚だ。魚と言えばタカさんだよな。タカさんあれって何て言う魚っスか?」

「ええっと...」

川の中をスイスイ泳いでいく魚に視線を合わせて、河村が何の魚かを確認する。

最初は不満タラタラだったメンバー達も、何だかんだと好き勝手に遊びはじめていた。木陰からそれを満足げに見ている部長代理だった。

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